住宅関連記事・ノウハウ
車椅子で自立の生活は可能だろうか?
1 車椅子で自立の生活は可能だろうか?
都市や施設でのバリフリーは当然として、住まいにおいてもバリアフリーとはなぜか車椅子で、そのために段差の解消だ、スロープだと言うことになり、行政もそうしたリフォームの補助金が一般的です。ところが、「車いすにどうやって乗ってどうやってトイレに移るのですか?」住まいのリフォームの提案で、一人暮らしの足の不自由なお年寄りに一喝されてしまいました。「それよりも寝室から這ってでもトイレに行ける家にしてください!」
2 車いすよりも這ってでも動ける家の発想
車いすイコール、バリアフリーのリフォームが一般的であった頃、多くの老人施設などを設計していた私はこの車いすにいささかの疑問を持っていました。果たしてお年寄りが急なスロープを車いすで自力で昇ったり下りたりできるのだろうか?果たして車椅子を器用に操ってお台所ができるのでしょうか?確かにパラリンピックに出場するような若い元気な障害者や、モーター付きの車椅子を操縦できる闊達(かったつ)な老人などは自由に行動できるかもしれませんが、実際には足腰が弱って腕や手も衰弱しますと、自力では車椅子をそうそう簡単には動かせません。第一その乗り降りが大変で、便器になどに一人で乗り移ることなどは不可能なのです。
こうなると寝起きのベッドや小上がりの畳床など、あえて3,40センチの段差がある方が、身体を起こしたのち足を降ろし、腰掛けて起き上がり、さらに手すりを伝って歩けるよう、部屋のあちこちや廊下の両側などに手すりを付ける方が現実的です。
畳のベッドから扉の向こうのトイレに行けるKo邸(写真天野彰)
歩ける内は頑張って手すりを伝って歩くことや、欧米の老人施設でよく見る歩行器などで暮らす方が足腰の運動にもなります。となると最初からまったく段差のない平らな住まいよりは、逆に多少の段差や緩い階段などはリハビリとなり、かえって手足や腰を鍛え元気になるのかもしれません。確かにおおぜいの老人を預かる介護施設などでは立ち上がろうとすると事故が多くなり、どうしてもいすに座らせて置くことが長くなり、その結果車いす漬けとなり、返って足腰が衰えてしまう老人が多いと指摘する整形外科の医師もいます。
3 手すりから手をついて突っ張る手つきの発想
お年寄りはどうしても手が小さくなり、しかも握力も弱まってきます。私は安易な手すりの付け方や手すり万能の考え方にも疑問を感じるのです。たとえば右利きのお年寄りに廊下や階段の右側に手すりを付けます。しかし行き帰り、や上り下りあるいは浴槽の出入りによってその位置は変わります。左利きの人もいます。従って手すりは両側に付けることが原則ですが、従来の住まいの廊下などの幅は一般的に壁の芯芯で90センチとすると壁厚を引いて80センチほどで、これに手すりの出が双方7、8センチで両側14、16センチを差し引くと…なんと65センチと、極度に狭くなるのです。そればかりか市販の手すりはその支えの腕やパイプも太いものが目立ちます。特に駅や公共施設の階段にあるような太い手すりは老人が掴み損ねてかえって大きく転ぶ危険もあるのです。
4 座ったまま腰をずらして動く、活きて行く発想
立つことも困難となって、しかもいよいよ掴む力も弱くなったら手を付いて這ってでも行ける手つき台やベンチで座ったまま腰をずらして移動する発想もあります。私は手すりと共に握力の弱まったお年寄りの暮らしに手つき式のベンチを考えます。それはかつて畳の部屋で祖母がそろそろと手を突っ張って這って鴨井から吊るした紐にぶら下がりながら移動をしていた様子をおぼろげながら覚えているからです。
何よりも、おむつになるよりなんとか自分でトイレ行けることが一番なのです。そこでベンチ式のトイレ
ベンチ式トイレ(天野彰)
さらに連続して浴室にまで行ける長いベンチを提案しています。
手つき式トイレと浴室R邸(写真天野彰)
祖母は小上がりの畳の寝床からそのまま浴室まで這って行き、脱衣室に敷いたタオル地のブランケットの上で服を脱ぎ、そのまま這って浴室の洗い場に敷いたスノコの上で転がりながらシャワーを浴びたと言う。これを娘である私の母親が手伝おうとするとおおいに嫌がったと言う…、つまりは最期まで自分で活きて行くという明治の女の強さなのです。
スノコの上の入浴イメージ(天野彰)
関連記事
おすすめ特集
人気のある家をテーマ別にご紹介する特集記事です。建てる際のポイントや、知っておきたい注意点など、情報満載!