住宅関連記事・ノウハウ
どんな家がこれからの家となるのか?
1 デザイナーズとか、なんとかハウスにうんざり
最近、こんな声をよく耳にします。IT時代のハイテク住宅だとか太陽光利用で再生エネルギーハウスなどと耳触りのよい歌い文句の家が多くなりました。ひと頃、老いの暮らしをイメージして、二世帯住宅だ、多世帯住宅さらにはバリアフリーの家とか、健康住宅。省エネルギー対策では、高気密高断熱の家、24時間住宅だ、地震に対して制震構造だ、免震住宅などと流行りましたが。今、本当にいい家とはいったい何でしょう?木の住まいや漆喰の家が本当にどういいのでしょう?デザインナーズハウスっていったい何?などの疑問も多くなりました。上辺や売てみまり文句に飾られ過ぎた家のスタイルが多くなっているのです。
こうした住まいが世に氾濫するようになったのは高度成長期に生まれたベニヤ板のプレハブ住宅や2X4すなわちツーバイフォー等の出現に端を発していて、住まいがモノ化や商品化となったことからです。よく考えすとこれらのすべてのニーズはメーカー側のものばかりで安く早くよく見せ、商品管理もしやすいことによるのです。従って本当に住まいやすい家とはなにか?については疎かになっているのかも知れません。
今まで生まれ育ってきた自然住宅と自然な暮らしについて改めて考えてみたいものです。私はこうした住まいをリフォームの際も極力自然な光と風の通る家の住まいに戻そうと努力しているのです。
京都の中庭の町家の平面図(画:筆者)
私は東京の羽村の取水口から四谷の大木戸まで延々43キロにもおよぶ人工の水道川とその水系全体を世界文化遺産にしようと活動しているのです。その真意は玉川上水をみんなが着目し整備されて都市全体に風が通ること目的なのです。しかも震災などいざと言う時に飲み水として消火のための防災にも役立つからです。
東京の風の道イメージ
この世界遺産フォーラムをこの5月26日PM2時から六本木ヒルズのハリウッドプラザ5階ホールにて開催します。入場は無料ですので皆さんぜひご来場ください。また前日25日PM5時からNHKラジオにてもお話しします。
「玉川上水世界遺産forumプログラム」はこちらからダウンロードできます(739-forum.pdf)
2 自分の住む場所を見て減災
このところわが国全体の地盤はなんとなく不安定で不安です。太平洋に面した大陸棚のしかもプレートが複雑にぶつかり合う狭間の国に住む以上、地震はもとより台風そして津波は防ぎようがないのです。特に最近は火山の噴火や水蒸気爆発までが災害の脅威となっているのです。家づくりで耐震耐火など防災に心がけてはいるものの、便利で人が集まりやすい都市はどんどん密集し拡張され平野部の活断層やあの巨大津波には無防備な湾岸までびっしりと建ち並んで危険性は増しているのです。どんなに快適な住まいでも大地震であえなく倒れ、その隣家から延焼してしまっては家どころか命を失うことにもなりかねません。東日本大震災のように大津波や液状化はもとより原発や化成コンビナートなどの二次災害が心配です。
怖い液状化の原理
なによりも20年前の阪神・淡路地震のあの恐怖の揺れの衝撃的な体験と、長く続く余震による避難生活の不安な日々の不自由さ、そしてその建て替えや復興予算の多額の出費を迫られ、ついにはその街と家を捨てた人も多いのです。そんな惨状をテレビの実況や新聞で目の当たりにしながらも、その本音は相変わらずあれは対岸の火事でわが街には来ない?もしあのような地震が来たらあきらめるしかないなどと開き直っている人も案外多いのです。
とんでもありません。防災は自分自身の問題ではなくその街に住む人全体の問題なのです。そこに住む人の心がけ次第で、工夫とわずかな費用で、今の住まいと街は耐震補強でき災害から逃れるか、被害を最小限に減らすことができるのです。それこそが「減災」なのです。今、阪神大地震の直下型の衝撃的な破壊と大火災から20年、そして巨大津波で多くの命を奪った東日本大震災から4年が経ちました。果たして今の敷地あるいは住もうとしているところが安全なのかどうかぐらいは知っているかどうかです。
地盤を知って揺れの変化を知る
そこでまずわが家が建っている街やその位置、あるいは建てようとしている敷地の位置を各市町村にあるハザードマップや海抜を示した地形図や活断層図から知ことが一番です。新興宅地であれば埋め土か盛り土かを申請に使った造成図を見せてもらうか、担当した施工者に問い合わせることも重要な手立てとなるのです。特に液状化の問題は家ばかりか避難路にも障害が起こります。こうして逃げる方向、近隣との一斉避難経路や避難先を決めて、自ら声を掛け合うことが重要なのです。減災は官制ではなく、住む人みんなの安全からこそ生まれるのです。この5月26日にあの「玉川上水を世界遺産に」のフォーラムを無事開催しました。360人ほどの来場者があり、世界遺産化はどうあれ玉川上水が360年余も防災に役立ってきたことと、江戸全体に水を供給し続け日本の水文化を生み、今も清潔な街に保ってきたことを知りました。
玉川上水とその水系と緑と風の道
同上フォーラム アトリユーム垂れ幕と会場風景(筆者撮影)
3 当たり前の家がいい
特に水は私たちにとって有るのが当たり前でおいしく飲めることもまた当たり前なのです。これがケニアやネパールなどではわざわざ水場にまで行って日に何度も汲んでこなければなりません。私自身も生家で井戸から水を汲んでいた記憶があるのです。何も大変な田舎でうんと昔のことでもありません。たった5,60年前のことです。従って水道が引かれてわが家の中の炊事場で蛇口を捻れば水が出た時の感動は今でも忘れられないのです。
初めて東京に出てきて下宿した家のトイレが汲み取り式で、それがある日浄化槽式の水洗トイレに改造された時はなぜかうれしくて日に何度でも行きたくなったものです。なんとそれも4,50年前のことで、ほんのこの間のことのように思われるのです。どの家庭も今のように西欧式の腰掛式便所となり、ましてや暖房便座で“シャワー式”なろうとはいったい誰が想像したことでしょう。世界を回っても日本だけのもので浴室に至ってはもう天国のようなものだとさえ言われまさしく世界一の「水、いや水回り文化」日本なのです。
考えてみれば360年ほど前、貴重な水を江戸市中に引くために多摩川上流の羽村から四谷まで延々43キロもの距離をわずか82メートルの標高差で自然放流でとうとうと水を引くなど玉川兄弟の快挙に驚き、しかもその恩恵で多摩、三鷹果ては品川などにまで水を分け与え、神田、目黒川など今に残る多数の分水網まで東京中を今もなお潤す水道技術など感動せずにはいられないのです。今思えば重機も電気もない時代、ぞっとするような土木と測量技術でしかも僅か一年も満たない間に完成させるという快挙で、その思想と思いに今も生きる遺構に世界遺産の称号を与えたいものなのです。
今私たちは住いづくりを含め建築関係者として、さらにそこに生きる建て主を含め、今日の家のありようをもう一度原点から考え直そうと思うようになったのです。
イラスト 住まいの原点
便利で機能優先で、工夫し生きる歓び、あるいは水の有難さ、そして余分なもので覆われてしまった住まいの原点とは何かを今、あらためて考えてみたいと思うのです。私たちはいったいどこから来たか?どんな家に住んでいたのか?そして江戸の裏長屋での庶民の暮らしは…と。
イラスト くまさん八つぁんの江戸の裏長屋の住まい筆者画
4 洞穴の家から壁の家・傘の家に
住まいの原点とは何か?を、改めて考えてみたいと思うのです。私たち人類創始は洞穴に住み、そして狩猟の際は獲物を求めて木の葉っぱや獲物の皮でつくったパオのようなテントに住み、竪穴式の現代の家に住むようになったのです。
わが国の「雨露と湿気対策の傘の家」(筆者画)
以来島国のわが国では江戸の裏長屋の庶民の暮らしを見るように、現代とほぼ変わらない雨露を過ごすための柱と屋根だけのシンプルな「傘の家」となり、それは営々と続き、今日のような戸建住宅のカタチとなり、その反対に大陸に住む民族は寒さや敵襲、略奪に備え丸太や石やレンガを積み上げた「壁の家」をつくったのです。そこを定住の拠点として狩猟に出かけ、さらに街全体に城壁を造って種族民族を守るようになったのです。その後、安全な城壁の中で多層型の穴倉の家のような暮らしとなり、それは世界共通の集合住宅のカタチとなっているのです。
傘の家と壁の家
一方で雨露をしのぐ「傘の家」はその名に示す通り、湿気を嫌ってさらに高床式となり、今日のわが国の住まいの原型となって今も世界唯一、裸足で住む家となり独自の住まいのカタチとなっているのです。特に高密度の都市に住むようになって江戸の裏長屋や、京都の中庭式の町家のカタチとなるのです。狭い江戸の裏長屋の家はわずか四畳半ながら家族のそれぞれの生活を守っていたのです。
5 これからの家はトゥモローランドにあるのだろうか?
住まいの本音とその原点をいろいろと考えてみますと、なるほどわが国固有の住まいのカタチはすでに伝統的な過去のものとなり、自然環境との適合から生まれた「傘の家」すなわち「屋根の家」の本質はそのフレーム構造を模しただけの一つのデザインフォームとなり、室内、インフィルはインテリアの趣向の一つとしての「和」のスタイルとなっているのです。
それは寅さん八っつぁんの江戸の裏長屋に見る時代の舞台感覚か、料亭や店舗デザインのフォーマットとなり、その空間の本質はすでに西欧の対自然の「壁の家」となっているのです。
わが国の「傘の家」に西欧風を取り入れながら、ついには根本から解体して、今の家が主流となったのです。それがわが国の近代化であり技術革新なのです。そしてある日「傘の家」は突然ベニヤ板製の「壁の家」となり一気に世界でも例のない工場で量産化され、世界一のシャワートイレ付きの家となったのです。半世紀にも満たないたった3,40年の間のことです。
こうして今のわが住まいの変遷を見つめると、それらが存在する周りの環境はすでに世界一となった自動車産業はもとより鉄道、土木建築技術の進化にて、都市そのものも、無国籍の世界のどこにでもある新興都市の様相となり、東京などの湾岸地域は砂漠の真ん中に登場する人口的で脆弱な映画“トゥモローランド”の様相を示しているのです。しかしこのことを誰もが追従しているかのようであり、その流れを止めようとする兆しもないことが気がかりです。
映画「トゥモローランド」の背景の都市のイラスト(カタログより)
一方ですでに居住環境は確実に劣化し、各地で異常気象も多発し、これからの家は「居住存続の本質」を確実に求めるものでなければいけないと思うのです。密集した都市に住む以上はある程度の壁は必要で、高層化もやむなしですが、肝心の「壁の家」の住まい方と文化に慣れていないと言うことが実情で、そこに、唯一“裸足で住む”私たちとのアンバランスと違和感が生まれているのです。高層マンションもまたしかりで、超高速のエレベーター開発や超高層のための耐震に目を奪われ、本来の火災や停電時の住人個々の安全がおざなりとなり、ちょっとした地震でも多くの人が閉じこめられ、高潮や液状化によって陸の孤島となり、高層階のわが家へ戻ることすら困難となるのです。ちょっと考えればわかるようなことが判断されない世の中となっているのです。
私はわが家を持つことになって初めてそんなことに気づき、今までの気の遠くなるほどの長年に渡って培われた生活体験から生まれた傘の家の原点に戻ることに気付いたのです。その家づくりの体験と戸惑いを「居住のソフトウェア」(講談社現代新書)なる本に著し、そこで大胆にも居住の経済学・居住の物理学・居住の心理学・居住の生理学などとあえて4つのジャンルに分けてそのソフトウェア(らしき)提案をしたのです。なんてことはありません。そんな学術書ではなく、日常の生活さらには家づくりにおいての実際の体験談や感想を集大成したものでした。
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