住宅関連記事・ノウハウ
使いやすいキッチンの満足度と腰痛の関係
1 住まいと健康の関連について キッチンの高さと腰痛との関連について
住まいの満足感は、日々の家事が楽しいと高まるようです。慢性腰痛を経験したことがある女性を対象に、居住環境・家事といった生活行動が慢性腰痛・ストレス等に与える影響を調査した論文が公開されています。この論文を要約する
満足度が高い住まいになると家事の楽しみが増えることから、ストレス・疲労感が減って慢性腰痛が減少するようです。
- ・運動習慣がない方にとって、家事を長く楽しめる住まいが腰痛を減少させる可能性があります。
- ・高齢期には家事を楽しめる住まいが、ストレス・疲労感や慢性腰痛を軽減する効果が期待できるようです。
- ・キッチンの高さ感が適切な場合において、家事の時間が長くても慢性腰痛がわずかに減るようです。
住まいのストレス・疲労感は慢性腰痛への影響が大きく、多くの時間を過ごすキッチンの高さを適切に整えることで、長い家事時間でも腰痛が軽減される、ということです。
家事の快適さを考えた家づくりが満足度を高める
適切なキッチンをしつらえることは、住まいと健康の関連において重要な要素、といえます。使いやすいキッチンにするためには、並行して適切な収納も考える必要があります。また、室内の暑さ・寒さが高血圧の原因になったり、ヒートショックの危険性が高まる要因になっていること。あわせて住まいの過度な湿気が結露・カビの発生を促しアレルギー疾患を引き起こす可能性を高めることは、広く知られていることです。家事や収納の優先順位を下げて性能スペックに偏った住まい選びにこだわるのではなく、日々の生活の基本となる家事の優先順位も高くした住まい選びが、長期間にわたり快適に過ごせる住まいになることは間違いないようです。
(参照論文) http://ci.nii.ac.jp/naid/130004937090
国立情報学研究所 学術情報データベース(CiNii)収録
居住環境と家事が慢性腰痛に及ぼす影響の属性別分析
COVARIANCE STRUCTURAL MODELING-BASED MULTI-GROUP ANALYSIS
AMONG LIVING ENVIRONMENT, HOUSEWORK AND
CHRONIC LOW BACK PAIN
長澤夏子, 堤仁美, 松岡由紀子, 加藤龍一, 秋元孝之, 田辺新一著
2 結露・カビはアレルギー症状の原因のひとつ
読者の皆さまもご承知の通り、結露・カビの発生はアレルギー症状の発生要因として知られています。なかでも、ほとんどの家庭で行なわれているリビング・ダイニングでの部屋干し。見た目や臭いの問題はもちろんのこと、結露・カビが発生する懸念が高まる原因のひとつと考えられています。
※出典:洗濯物の室内干しに関する調査研究
佐賀大学大学院 工学系研究科博士前期課程 都市工学科専攻 小渕 真弓
佐賀大学 文化教育学部 地域・生活文化講座 澤島 智明
Survey of Indoor Laundry Drying Mayumi OBUCHI, Tomoaki SAWASHIMA
結露・カビの発生と関連づけられる生活習慣について分析した調査は、いくつか公開されておりますが、東北大学・吉野博名誉教授の論文(※)によると、「洗濯物は居間において顕著に結露やカビの発生リスクとなっている。常時換気を行ったとしても、洗濯物からの湿気の発生量に対して換気量が不足していると推察される。」とされています。住宅の築年数が古ければ古いほど、戸建住宅と比較して気密性の高いRC造集合住宅は、結露・カビの発生リスクが高まります。※出典:吉野博、北澤幸絵、長谷川兼一(2014)
「住宅における結露・カビの発生要因に関する調査研究」
『日本建築学会環境系論文集』pp.365-371
清掃機器の最大手メーカードイツ・ケルヒャー社の日本法人、ケルヒャー ジャパン株式会社が2017年1月に発表した結露に関するアンケート(※)でも、同様なことが述べられています。調査によると、自宅で結露する方は77%にもなり、結露によるカビが発生したことがある家庭は69%、部屋干しを「する」「時々する」と答えた方は87%に上ります。結露が発生すると、ぞうきんやタオルを使って拭き取る方が大半ではありますが、意外にも「特になにもしていない」という方も多数いらっしゃるようです。※出典:ケルヒャー ジャパン株式会社結露アンケート調査 2017年1月
換気不足や窓の断熱性能が低いことも結露の原因
最近では新築・リフォームを問わず、内装の仕上げで話を聞く機会が増えている調湿性能をもつ塗り壁や木質系の壁材を使って壁の結露を抑えると、窓・窓際やカーテンへの結露の発生を抑えることができるかもしれません。結露の原因のひとつとされている換気量の不足では、調湿性能をもつ仕上げをしたとしても換気が不足しがちな押入れや家具の裏にカビを発生させる可能性は十分に考えられます。あわせて、結露が発生する原因は、室内の暖かく湿気を含んだ空気が室外側から冷やされるため、暖かい空気に含まれた湿気(水蒸気)が凝縮して結露(水)に変わるためなのです。窓やサッシの断熱性能が低ければ低いほど、外気によって窓やサッシが冷やされていきます。
高い室内温度・低い室内湿度でも窓やサッシへの結露がひどくなります。
洗濯物の部屋干しをはじめ、日々の調理や入浴はもちろん、水槽や観葉植物からも水蒸気は発生しています。水槽や観葉植物をディスプレイしているリビングダイニングで洗濯物の部屋干しをして、リビングダイニングの近くにある浴室のドアを開けたまま節電のため換気扇を運転させない状態での生活を普段から続けていると、結露とカビを著しく増やしてしまうことは間違いないようです。
新築の場合は、換気扇や窓・サッシの断熱性能など仕様も重要
結露やカビを防ぐためには、調湿性能を謳う仕上げにこだわる前に、洗濯物の室内干しをやめるのが最善ではありますが、そもそも洗濯物の室内干しはやむなく行なうものです。結露やカビを防ぐため、現実にそぐわない生活習慣を変える努力をするよりも、新築はもちろんリフォームの優先順位のつけかたとして、適切な換気扇の選定と設置はもちろん、断熱性能に優れた窓・サッシ、お住まいの地域にあった適切な断熱仕様を施すことが、より現実的な結露・カビ対策であることは間違いありません。
3 冬期間の結露・カビを防止する方法
住まいの地域の気候や立地などの外部環境にあわせて、結露・カビの発生を抑える住環境整備。それらがアレルギーの症状の予防対策につながることが示されています。2003年に法的に義務化された、24時間常時強制的に換気できる環境を整えるための換気設備は急速に普及しております。しかし、換気設備を常時稼動させる電気代を節約するため、せっかく設置されている換気設備を止めているご家庭も少なくありません。24時間換気を止めないこと。廻しっぱなしにしても、月々の電気代は1,000円もかかりません。
室内の湿度を上昇させる原因となる器具などは置き換える
部屋干しはもちろん、開放式の灯油ファンヒーターも燃焼した灯油とおなじ量の水蒸気を発生させるため、他の暖房器具に置き換えましょう。
注意点
24時間換気設備は適切なメンテナンスが重要です。皆様でもできることは、定期的にフィルターを清掃(目安は3ヶ月ごと)・フィルターの交換(目安は1年ごと、穴が開いているときは随時交換)です。
アレルギー疾患のリスクは室内の過度な湿気も大きな要因
住居内が過度に湿気を帯びて結露・カビが発生する状態(ダンプネス)の程度が重くなればなるほど、その家に暮らす子供が喘息やアトピー性皮膚炎にかかるリスクが高くなるります。また、冬期は室内環境の影響が大きいことが示されています。
各種アレルギー疾患の有病率について
- ・ダンプネスの程度が重い場合の有病率はアレルギー性鼻炎が2倍、喘息は1.7倍に高まることが示されています。
- ・アレルギー性鼻炎と喘息の有病率は
換気設備の仕様の有無をはじめ、工業地域、河川などの屋外環境も影響することが示されています。
※出典:国土交通省 健康維持増進住宅研究委員会 10.03.24 資料No.5
(平成 19~21 年度)健康影響低減部会 活動概要
※出典:住宅のダンプネスのアンケートによる評価法の提案と子供のアレルギー疾患に及ぼす影響に関する全国調査
長谷川 兼一/鍵 直樹/坂口 淳/篠原 直秀/白石 靖幸/三田村 輝章
日本建築学会環境系論文集 81(723), 477-485, 2016
快適な暮らしは、適切な換気設備や暖房器具を選ぶことが重要
月々1,000円程度の電気代はもちろん、暖房器具本体価格は安価でも湿気を発生させてしまう暖房器具を多く利用することで、アレルギー症状がひどくなってしまい、節約した電気代・暖房器具代以上に医療費がかかってしまったのでは元も子もありません。また、新築・リフォームを検討するときは、調湿性能に優れた壁材などを選ぶことだけがダンプネスを抑える方法ではなく、お住まいの地域、周辺の環境にマッチした適切な換気設備・適切な暖房器具を選ぶことのほうが、より優先順位が高い項目なのです。
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