住宅関連記事・ノウハウ
「金利がいつ上昇するか」という関心は高まるばかり
2024年3月19日のマイナス金利解除後、日経平均は4万円を超え景気回復への期待が高まったものの、4月に開催された日銀支店長会議では各地の景気は8地域で「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」。1地域では「持ち直しの動きがみられている」となっています。
この状況は、2024年1月に開催された前回の支店長会議開催時点と比較する限り、全9地域中7地域で総括判断が引き下げられています。
さらに、住宅投資について4月に発表された日銀地域経済報告―さくらレポート―(2024年4月)をみると、近畿地方が唯一【横ばい圏内】である以外、どの地方も【弱めの動き】~【減少】と厳しい傾向となっています。
これは、急激に進む円安基調の前に出されたレポートにつき、為替が乱高下している5月2週目時点では、一部を除きより厳しい傾向になることは容易に想像できます。
今回は住宅ローンにも大きく関わる金利動向について、解説します。
25年で半分以下に減った持ち家着工棟数
2024年1月31日に公表された国土交通省の「住宅着工統計」によると、2023年の新築住宅着工戸数は、前年比4.6%減の81万9,623戸。3年振りの減少となりました。
持ち家(注文住宅)は、前年比11.4%減の22万4,352戸と大きく落ち込み、1959年の20万4,280戸以来、64年ぶりの低水準となりました。これは、住宅建築費や土地取得費の上昇、中古マンション価格の上昇、中古戸建住宅の伸び悩みなどから、戸建志向が低下していることが要因として考えられています。
賃上げ前の物価上昇により、消費マインドは依然として高まらず
厚生労働省が2月6日に発表した2023年の毎月勤労統計調査(速報)によると、労働者1人あたりの平均賃金を示す現金給与総額(名目賃金)に物価変動を加味した実質賃金は前年比2.5%減と、賃金上昇が物価に追いつかず、家計の節約志向が高まっている傾向が続いています。
これは、消費増税による影響で2.8%減となった2014年以来の減少率。
また、5月9日に厚生労働省より発表された3月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比2.5%減。減少は24カ月連続で過去最長となっています。
給与総額は伸びているものの、物価高に追いつかない状態が続いているということです。
さらに日銀によるマイナス金利解除をうけた『金利のある世界』が始まったものの、現時点では『住宅ローン金利』は各金融機関で対応がわかれ、現時点では表立った金利の大きな変化は起きておりません。
となると、一般的に住宅の検討をはじめてから金銭消費貸借契約を契約するまで3ヶ月~1年という期間を考慮した場合、どのタイミングで金利が上昇していくのか?というのが、家づくりをご検討中の方々にとって最大の関心事。
各地で大地震が頻発し、住宅性能と睡眠・健康の関連性が明らかになっている現在。震災リスクや将来の健康維持より、そもそも【金利が上がっても住宅ローンを払えるのか?】という方向に関心が向いてしまうのは、将来の返済不安を考えると一概に否定できません。
また、入居後の付保が欠かせない【火災保険】ですが、昨今の自然災害多発をうけ損害保険会社各社とも火災・地震保険料の大幅値上げが続いています。
かつては火災保険の保険料支払い方法として35年一括払いという長期一括払いを使って 5年・10年単位での火災保険料支出を抑えるテクニックも、今は利用することができません。
現在では、各損害保険会社とも火災保険料のお支払いは最長5年一括払いしか選択できないのです。
※5年以下であれば、火災保険料のお支払いは年払い・月払いなど選べます。
無視できない火災保険料の支出も最長で5年毎となり、結果として5年・10年毎の支出は増える一方です。
長期スパンでみると金利変化は大きい
各金融機関のこれからの金利変化を予測する方法として、「インプライド・フォワードレート」という方法があります。
これは、「長期の固定金利が複数設定されていれば、将来の金利が推計できる」という考え方です。
この「インプライド・フォワードレート」を使って各金融機関の金利見通しを試算してみたら、変動金利は現在の基準と比較して大きく上昇していく可能性がみえてきました。
それでも、過去の変動金利を数十年単位で遡ってみる限り、これからの変動金利はそう極端に高い金利になることはない模様です。
10年スパンでの金利上昇与件を踏まえ変動金利を選んだ場合の長期的リスクを列挙し、これからどのような対策をすべきかを次ではご紹介します。
10年スパンでの金利上昇与件を踏まえ、金利上昇リスクを見込んだ予測を
現在の低金利を踏まえ勧められるまま変動金利を選んだ場合、金利上昇に伴う家計負担の増加以外の長期的リスクとして、主に以下の6項目が想定できます。
変動金利のリスク1 教育費
言わずもがなではありますが、たいてい10年後には子どもの大学進学というご家庭も多いかと。
<種類別の大学学費の平均値>
入学金 | 授業料 | |
---|---|---|
国立大学 | 282,000円 | 535,800円 |
公立大学 | 382,631円 | 534,431円 |
私立大学 | 259,890円 | 971,664円 |
※参照元:旺文社 教育情報センター 2023年9月29日
上記にあるように、大学は毎年の学費だけでも 約70万円/人が平均ライン。入学時には当然入学金もかかりますし、ゼミの活動費など想定外の支出が重なります。
変動金利のリスク2 親の介護
親の加齢に伴い施設に入居する場合、目安として年間で100万円/人単位での支出が想定できます。
<介護施設・老人ホームの費用の平均値>
施設別 | 入居一次金 | 月額利用料 |
---|---|---|
介護付き有料老人ホーム | 386.1万円 | 23.7万円 |
住宅型有料老人ホーム | 75.9万円 | 13.9万円 |
サービス付き高齢者向け住宅 | 26.8万円 | 16.1万円 |
グループホーム | 8.2万円 | 12.5万円 |
ケアハウス | 37.4万円 | 11.2万円 |
高齢者住宅 | 63.9万円 | 12.8万円 |
※参照元:「全国の老人ホームの相場」 みんなの介護
たとえば親を自宅に呼び寄せるとしても、引っ越し代はもちろんのこと、親が長年ためこんだ生活雑貨や書籍などの処分にかかる費用も見込んでおく必要があります。
変動金利のリスク3 医療費
自身の加齢により、生活習慣病のリスクは高まります。
たとえば重度の糖尿病になると、最低でも通院による薬代や血液検査で、月あたり1万円以上の支出増となります。さらに症状が進行して人工透析となった場合、血液透析は1回あたり約3万円。
週に3回、1ヶ月あたり12~13回行うため、1ヶ月で約40万円。年間にすると約 480万円の費用がかかります。
生活習慣病に無縁だとしても、歯の衰えはほぼ誰しも訪れます。
インプラント1本あたりの費用相場は、総額で30万円~40万円程度。しかも、インプラントは本程度で済まないところが歯科治療の悩みどころ。
白内障(日帰り手術の健康保険適用でも片目数万円・自由診療では片目50万円以上)など、加齢に伴う目の疾患も無視できません。
変動金利のリスク4 家電、自動車などのメンテナンス
通常、白物家電(冷凍冷蔵庫・洗濯機・エアコンなど)の寿命は、ほぼ10年程度。10年を超えると、ほぼ補修部品がなくなるため買い換えを余儀なくされます。現在は省エネ性能に優れた家電が大半であることから、買い換えによって電気料金の節約も期待できますが、白物家電の高機能化に伴い本体価格は上昇するばかりです。
自動車も同様なことが言えます。
2021年11月から国産の新型車は自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)の搭載が義務化されています。今後、輸入車の新型車が2024年7月から適用される予定です。そして国産の継続生産車も、2026年7月(軽トラックは2027年9月)から、さらに輸入車の継続生産車に関しては2026年7月から義務化となります。
この自動ブレーキは車載コンピュータで制御されていることから、継続車検制度についてもコンピュータを介した車検制度(自動運転技術等の電子装置に搭載された自己診断機能である車載式故障診断装置(OBD)を利用した新たな自動車検査手法)となり、車検費用が上昇する可能性がないとはいえないでしょう。初期登録から13年目・18年目に訪れる自動車税・自動車重量税の増税も無視できない額となります。
変動金利のリスク5 住宅のメンテナンス
戸建住宅の場合、10年ごとに屋根・外壁のメンテナンスが必要です。
防蟻処理は、一般的に5年程度が目安。タンクレストイレや洗浄便座なども、10年以上経過して壊れてしまった場合、ほぼ補修部品がないことから、買い換えを余儀なくされます。
トイレが壊れてしまうと、まず生活できなくなるだけに、影響は深刻です。
変動金利のリスク6 火災保険料
現在の火災保険は、最長で5年一括払いまで。
台風など自然災害の増加に伴い、火災保険料はもちろんのこと頻発する地震の影響から、地震保険料の値上げも無視できない額となっています。
極めて楽観的ではありますが、これからも住宅ローン金利が上昇せず、月々の支払いが変わらないと仮定しても、住宅ローン以外の家計支出が増える項目として、上記の6項目は大半の方々が対象となることでしょう。
金利上昇を見越して、これまで以上にケチになろう!
先にあげた家計支出が増えるタイミングで金利が上昇し住宅ローン返済額の増加も重なった場合、月々の家計においては大きな負担増が訪れます。
たとえば、借入金額 4,000万円、返済期間35年と仮定。
当初は10年固定金利を選択します。金利 1.0%であれば、初めの10年間の毎月返済額は11.3万円。
変動金利に切り替わる11年目に2.0%になったとします。
すると、毎月の返済金額は約1万4,000円アップの12.7万円となります。
教育・介護・医療で家計支出が逼迫するなか、住宅ローン返済金額が1万円以上アップというだけでも家計が破綻する可能性が高まるかもしれないなか、金利上昇幅が2.0%、3.0%と考えると、もはや破綻という道筋は避けられません。
今後起こり得るリスクとして、10年後に過去32年間の変動金利平均値である4.0%になったと仮定すると・・・
つまり、これから住宅を購入する場合、いままで以上に住宅ローン返済が大きな負担にならないか、目に見える形で把握しておくことが重要です。
たとえば、金利上昇に備え貯蓄を増やそうと努力するなど、きれいごとだけでは済まない入居後の生活を変えること。普段の生活の無駄をどこまで圧縮するか。
生活の無駄とは、たとえば泥のついた根菜は水を流しっぱなしで洗うのではなく、洗い桶に貯めた水で野菜の泥を落とす。といった、ちょっとした工夫です。
そんなちょっとした工夫でも、水道料金の節約につながります。
新居のために、いままで以上にチリを積もらせてケチになろう。というのが大切な視点です。
もちろん、将来的な家計リスクはご自身で計算していただいても良いですし、住宅ローン専門家に相談する方法もあります。
10年後に備え、キリギリスさんではなく、アリさんの生活を心掛けること。これが大切です。
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