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建築家 天野 彰 手すりから手をついて突っ張る手つきの発想

手すりから手をついて突っ張る手つきの発想

 お年寄りはどうしても手が小さくなり、しかも握力も弱まってきます。私は安易な手すりの付け方や手すり万能の考え方にも疑問を感じるのです。たとえば右利きのお年寄りに廊下や階段の右側に手すりを付けます。しかし行き帰り、や上り下りあるいは浴槽の出入りによってその位置は変わります。左利きの人もいます。従って手すりは両側に付けることが原則です。

 が、従来の住まいの廊下などの幅は一般的に壁の芯芯で90センチとすると壁厚を引いて80センチほどで、これに手すりの出が双方7、8センチで両側14、16センチを差し引くと…なんと65センチと、極度に狭くなるのです。そればかりか市販の手すりはその支えの腕やパイプも太いものが目立ちます。特に駅や公共施設の階段にあるような太い手すりは老人が掴み損ねてかえって大きく転ぶ危険もあるのです。

座ったまま腰をずらして動く、活きて行く発想
 立つことも困難となって、しかもいよいよ掴む力も弱くなったら手を付いて這ってでも行ける手つき台やベンチで座ったまま腰をずらして移動する発想もあります。私は手すりと共に握力の弱まったお年寄りの暮らしに手つき式のベンチを考えます。それはかつて畳の部屋で祖母がそろそろと手を突っ張って這って鴨井から吊るした紐にぶら下がりながら移動をしていた様子をおぼろげながら覚えているからです。

 つまり何よりも、おむつになるよりなんとか自分でトイレ行けることが一番なのです。そこでベンチ式のトイレ

ベンチ式トイレ
■イラスト:ベンチ式トイレ(天野彰)

さらに連続して浴室にまで行ける長いベンチを提案しています。

手つき式トイレと浴室R邸
■写真:手つき式トイレと浴室R邸(写真天野彰)

 祖母は小上がりの畳の寝床からそのまま浴室まで這って行き、脱衣室に敷いたタオル地のブランケットの上で服を脱ぎ、そのまま這って浴室の洗い場に敷いたスノコの上で転がりながらシャワーを浴びたと言う。

 これを娘である私の母親が手伝おうとするとおおいに嫌がったと言う…、つまりは最期まで自分で活きて行くという明治の女の強さなのです。

スノコの上の入浴イメージ
■イラスト:スノコの上の入浴イメージ(天野彰)

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建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表