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「エンプティネスト」は災害に弱い
1 「エンプティネスト」は災害に弱い
住まいの人生時計(画:天野彰)
すでに16年が過ぎた阪神淡路地震で多くの高齢の犠牲者を出したのは、子育てが終わって手入れの行き届かなかった家に住み続けていた老人世帯の家の倒壊による圧死と、家の中で多くの家具などの転倒や開かないドアなどで、行く手を阻まれての焼死と言われています。今回の東日本での津波などの災害とも共通する被害を総合しますと、老人世帯の家の補強や環境整備が改めて最重要だと言えるのです。
阪神大震災の2階が重く倒れた家(写真天野彰)
子育てのために建てた家も、長い人生から見ますとあっという間のことで、子どもたちは成長し出て行ってしまいます。その家のことを なんと“エンプティネスト”と呼ぶと言うのです。いわば空の巣、すなわち“空き巣”です。とんでもないことです。家は夫婦が住んで生きて行くところです。
東日本大震災の津波の惨状仙台市(写真天野彰)
しかし残念ながら現実の家づくりはどうもそのような家が多いのです。あの阪神・淡路地震のときは比較的大きな家が二階に子どもたちの重い“残骸”を残したままの空の家が多く、しかも雨漏りなどろくに手入れもしないまま老夫婦が住み続け、こうした家が倒壊の被害に遭って多くの犠牲者を出したのです。
今、世の中は核家族化が進みしかも少子高齢化の時代に、そうした“老いた家”が急激に増えているのです。
家づくりでの夫婦の共通の課題は子どものためです。子供部屋が優先され、妻は「システムキッチン」夫は「書斎」と、小さな夢を馳せらせたのです。その結果、今、誰もいないダイニングリビングと、物置化した「子ども部屋」が残る無駄な大きな家となっているのです。思い起こせば高度経済成長期の真っただ中で会社人間の夫は忙しく、妻や子どもたちの日常生活を無視した経済的かつ合理的な家づくりを進め、反対に妻だけで子育て中心の家づくりでもあって、まさかその先の夫婦の家までが見えてこなかったのです。
2 「夫婦の家」をつくる
:大人の空間(画:天野彰)
新築もリフォームもその主人公は建て主の夫婦です。最後まで住むのも夫婦なのです。この機会に夫婦で話し合い、老いる生涯の家にまとめて行く工夫と努力が必要となるのです。
これからの家づくりのためには夫のやるべきこと、妻のやるべきことの「分業」が必要となります。想定される家族変化と建築費や維持管理費など、経済シミュレーションは夫。日常の暮らしの演出は妻の仕事です。これにはいずれ来る介護や同居などの問題も含まれるのです。またこれらをすべて妻に任せきりにしたために失敗する例も多いのです。家づくりを機に夫婦の考えや将来への見通しなどを考えることで、互いの考え方や本音などを改めて知って夫婦関係が修復することも多いと言われます。家づくりは夫婦にとっ結婚、出産に次ぐ第3の試練であり、長い人生へのスタートでもあるのです。
大人の空間(画:天野彰)
子育て優先の家は彼らが巣立った後、まるで抜け殻のようになってしまいかねません。そこでアナログ式の「住まいの時計」で、わが人生を眺めてみるのです。すると家は、育児型、社交型そして養老型へと15年ごとに変化して行くことが分かります。ご存じ「人生時計」ですが、時計でその量を見ますと子育ての期間があまりにも短く、老後があまりにも長いことが分かります。それこそ夫婦の“愛の時計”で、家が「夫婦の家」であることがよく分かるのです。
その夫婦の家で忘れてはならないのは大人の「男と女」、すなわち「男と女の家」です。するとリビングは「大人の空間」となり。子どもたちはそうした親の生活や生き方を見て大人に育つのです。「夫婦の家」は案外クールで、努力しないでいると殺風景で寂しいものとなりかねません。
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