住宅関連記事・ノウハウ
建築家の役割「今の家に本当の夫婦の顔を創るために?」
【1】夫婦の想いを形にする?!
2020年2月22日、夫婦がイメージされる日に書いているのですが、改めて夫婦の想いやその重要さを考えされるのです。
かつて夫婦の家は子育てを優先ながらも創ることを、夫婦であれこれ真剣に葛藤しながらも二人で創っていたような気がするのです。しかし時代が変わり、夫婦は出来合いの規格型の家やプランを選ぶだけのようになり、最近ではスーパーの野菜売り場で、まるで「一個いくら!」のタイムセール感覚で選んでしまうような感さえするのです。
本コラムの主催のハウスネット・ギャラリーは、毎回こうしたいろいろなでき方による多くの実例を忠実に、数多く展示すると言う、家を建てる人やリフォームをしようとしている夫婦方に素晴らしい示唆を与えてくれる唯一のサイトだと改めて思うのです。
【2】ドアの色ひとつ、木目ひとつ議論し合える夫婦で創る家づくり
かつて家づくりのお手伝いで、「木目の壁のなかに真紅のメリハリのあるドアをアクセントカラーにして塗りましょう!」などと提案すると、建て主の奥さんから「なぜ?ここはこの色でもいいではないの?」と来たのです!その反対に、すべて私どもに託す建て主には「1万色もある見本帳ですが・・・。これだと思う色や柄があるはずですから奥さんもご主人も選んでみてください!」などと、遠慮深い私は、口の中で「何色だって合わせますよ!」と、もごもご・・・と。
家づくりの後半となってこのような議論が現場でできること自体がとても素晴らしいことなのです。これこそが夫婦で創る家となるのです。こうして大きな安心の中にある家づくりは、リビングのドアの色一つとっても、木目の違いなどを議論し合える奥の深い住まいづくりなのです。
【3】素材の経年変化や街との調和まで考える
すべての家づくりがそうとは言いませんが、こうした雰囲気をつくらない限り活発な意見や要望は出ないのです。むしろお手伝いしている私どもが、困惑したり、時にはカチンと、来るほどの意見が出てこそ初めて“夫婦の家”となるのです。要望を入れ過ぎてうるさいデザインになることもありますが、そうならないように上手に整理し誘導するのも私たち建築家の力量のひとつと言えるのです。さらにこのとき、将来飽きが来ないような色や“素材の老け方”までを想定することが重要です。
木目の違いは次第に焼けたり程よく朽ちて落ち着くことを想定し、一方の色は黒を少々混ぜ合わせて最初から汚れて落ち着いた色にするなどです。これで時間が経っても飽きない家となるのです。
「あの白木のようだった床や天井の色調がだんだんと目に優しい木肌色となって行くのには驚きました!」とは、私の脳の“経年変化”を診て頂いている建て主であり主治医の先生の感想でした。と、同時にその街の調和や隣家とのバランスなど、簡単なことのようですが、こんなことが、私たちが考える建築家とつくる家だと思うのです。建築家諸氏!もっと本来の自身の意志と職能で頑張りましょう!まだまだ多くの人たちが家づくりやリフォームに失敗し、いや、むしろそのことに気が付くことなく、また自分たち自身の家を創る奥深さを知らないでいる人が多いのです。と、思うだけでも勇気が出るのです。
【4】白のキャンバスにどんな家を描く?
住宅のデザインは、その家に住む人やその家族、とりわけ今の時代に即した夫婦の家は、その機能はもとよりデザインの配慮がなされていないことが多いのです。では、現代の夫婦の家とはいったいどのようなものでしょう、また設計監理者の役割とは、デザインの配慮とはどう考えたらよいのでしょう。
【5】費用よりも夫婦ごとで異なる間取りやデザイン性を重視する
私は家の設計を依頼されたとき、その瞬間に家族の、とりわけ夫婦の家の「顔」をイメージします。それは目鼻の付いたものではなく、ぼやっとした輪郭のようなものですが、不思議なことにそのイメージはいつまでも払拭(ふっしょく)されることなく、設計の最終の段階にまで付きまとうのです。しかし、打ち合わせを繰り返し、次第に親しくなっていくほどにこれが大きな間違いであることに気づくのです。改めてその夫婦の夫と妻を別々に意見を聞かせてもらい、その違いのいくつかを確認させていただくのです。
それがキッチンや浴室などの水回りや収納ではなく、意外にも玄関の様相や、和洋のデザイン感覚、夫婦それぞれの場の確保(取り合いか?)であることがよく分かります。双方で盛んに色柄や費用について気にしている割には案外本気ではなく、後で予算のやりくりであたふたと揉めることにもなるのです。
実はこんなことはよくあることで、夫婦の意見の違いや感覚のずれをお互い感じてついには家づくりそのものが嫌になってしまったり、建った家も夫婦互いが満足することにならないと言うのです。
【6】設計者が入ることで最終的な「夫婦の家」になる
そこでこんな悲劇が起こらないためにも、設計者は勇気をもって設計の最終段階であえて間に入って、今までの意見の確認を行うのです。今の夫婦の家とはどんなものなのかを提示し、はたして夫婦に似合った家なのかこの先々飽きが来ないか?そして老いて夫婦だけでいつまでも暮らして行ける家なのかなどを話し合いその調整をすると不思議なことに自然に2人の意見の“最大公約数”が見えて来るのです。設計の最後の最後で本当の「夫婦の顔」が見えてくるのです。その顔には優しいほほ笑みと、失礼ながら夫婦の皺さえも見えて来るのです?
【7】真っ白なキャンバスに何から描く?
長い冬からやっと桜が咲き始め暖かみが増すころ窓を大きく開けて春の陽ざしを感じたくなる頃、改めて住まいの内と外とのつながりを感じます。都市での家づくりはこんな爽やかなイメージで開放的で、それでいてコンパクトな家をイメージするのです。
【8】家づくりは最初が肝心!
永年わたり住まいづくりのお手伝いをして来て家づくりのスタートでいつも感じることは、建主が更地を目の前にして、まるで画家が筆を持って真っ白のキャンバスに初めて線を引く瞬間のような、そんな心境を思い浮かべるのです。そこに図が描かれ、色が塗られ、果たしてその通りの立体的な家が描かれるのだろうかと、戸惑いながらも大いなる夢を抱いているのです。設計図の読み方も分からず、それをさらに立体的に描いて、かつ生活に合わせて時系列的に理解することはなかなか難しいものです。これを設計者や施工者たちは当たり前のように、話を進めるのですが、建主にとってはそれも訳が分からず、動揺し既に“賭け”のような心境となっているのです。それを丸ごと購入したり、設計や施工の契約をすることなど「清水の舞台から飛び降りる」がごとき心境でいるのです。
しかし、それを担う若い建築士やセールスマンたちは、建主がまさかこんな心境とは夢にも知らず家づくりをさっさと始め作業を押し進めてしまうのです。本来「ご一緒に考えて、いい家をつくりましょう」で、「僣越ですが、とにかく技術的なことは私たちに任せて、ご夫妻はどう住みたいか、どう暮らしたいかを考えて教えて下さい!」などの丁寧な説明と提案する気迫が必要なのです。
【9】「場取り」で家づくりの手順など全てを理解する?
筆者の家づくりでは、間取りの図をいきなり示すのではなく、南北を指し示した白い画用紙に、それぞれの大きさに切った円を並べ、まるでカードを切るように並べて、それを家族と一緒に移動させながら家の形をイメージしてもらうのです。間ではない家族の居場所や何かをする場などの「場取り」をしてもらうのです。
こうして設計のお話を進めて行くうち、プランも全員で理解し、家づくりの手順や項目や単価さえも、「ははーん、こんなことだったのか!」とか、おおよその面積に単価を掛けて壁や天井の仕上げ材のなどの予算さえ分かってくるようになるのです。すなわち、広さ、質、作業、養生、そして経費。皮肉 にも建物の完成間際には、設計者と施工者とのやり取りも分かってくるのです。こうして現場が進むと、空間も分かって来て、これは狭いとか、低いとか、もう気分はまるで建築家のようです。
こんな仕上げで良いだろうか?ここは手抜きではないか?などと、設計監理の担当者に競って指示や“監理”をしだすほどになるのです。
実際の施工の監理は既に基礎づくりから始まっているのですが、建て主が大工さんと一緒に建てている気分となっていることがとてもうれしいものです。あとは引き渡し前の完成チェックも一緒に行うのです。
しかし一般には車の売買のように新車の検査と同じ感覚で観て購入するような姿勢になってしまいます。しかし今まで建てて来たその家は手作りゆえの壁や天井には、むらや凹凸もあり、それがまた本物の味わいを醸しだしているのです。
世界にたった一つしかない建物を建主が自分でつくり得た喜びです。これこそ私たち設計士が完成の安堵と幸せを覚える瞬間です。建主がさらに良くしたいと願った真剣な想いの成果なのです。
「このスペースもったいないわ。収納にして!」「ここにあの絵を飾りこのチェストを置く!」「あそこに棚をつくって!」などなど、これによって自分たちに合った建物となるのです。それこそわが家を自分たちで創ったような気持ちになるのです。これはリフォームでも同じことです。
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