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建築家 天野 彰 暑い夏を乗り切る「住まいは夏を旨とすべし」

1 住まいは夏を旨とすべし

蒸し蒸しする暑い。そして長く続く雨は心理的にもイライラ感が募ります。涼しげでむしろ寒そうなくらいのこの冬の白川郷の合掌造りの写真でもしばしご覧あれ。この合掌造り実は湿気対策の「夏の家」だったのです。

写真:妻側は障子と板戸冬も通気(明善寺)設計アトリエ4A)
<写真:妻側は障子と板戸冬も通気(明善寺)(設計アトリエ4A)>

「コンチキチン♪」のお囃子を聴く蒸し暑い祇園祭の宵山の季節がやってきました。3年ぶりの巡行です。実はこのお祭りも湿気に関わるのです。

こうしてわが国の住まいの最重要テーマは、耐震はもとより湿気対策重視になりました。

北陸などの多雪地帯でも夏の湿気もさることながら、積雪時の結露対策も必要で厳寒にかかわらず、障子1枚を開けて全館の通風も必要なのです。

コロナ対策の換気は湿気対策?

暑い夏はどうしてもエアコンに頼ることになりますが、家の芯まで乾かすためには体感湿度より、長時間の除湿が効果的となると、やはりコロナ対策でも有効な、自然の風通しと通気が重要になります。

特に梅雨の合間の晴れの日は極力窓を開け、風を通すように心掛けたいものです。家の外と中、床下や湿気がたまる押し入れの中に簡易な湿度計を置き、外気の湿度が低いことを確かめ、風の方向を読んで窓を開け、家全体の対角線方向に風を通します。

これはアパートやマンションでも同じです。風のない日は安価で簡易な小型の扇風機を2、3台ほど用意して、1つは外部から室内に向け、もう1つは反対に風を押し出すように家の外に向けて回します。押し入れもこの換気扇で風を送ります。湿気が溜まりやすいじゅうたんや畳は、テレビや飾り棚などの物が置いていない部分をバールなどで持ち上げ空き瓶などを置き、そこを掃除しながら扇風機で風をあおると乾きます。

イラスト: 畳を上げて風を通す   (画:天野彰)
<イラスト: 畳を上げて風を通す  (画:天野彰)>

点検口や床下収納があれば籠を外し、子どもたちが落ちないように注意して床下に扇風機を置き、通風孔に向けて風を送ると床下も乾燥します。こうして室内だけではなく床下にも湿度計を置いて常にチェックするのです。

湿気対策珪藻土や炭素材

湿気対策でさらに効果的なのはリフォームや新築の際、室内の壁や天井仕上げを極力珪藻土や炭などの素材や塗り壁にするのです。既成の珪藻土ボードや各種の炭ボードやクロスなどがあり、長期間の調湿作用に優れ、出かけて室内を閉めきっていても常に60% 内外に湿度を保ち、しかも空気中の有害物質なども吸着してくれます。

写真:子ども部屋を珪藻土ボードのふすまで仕切る   設計アトリエ4A)
<写真:子ども部屋を珪藻土ボードのふすまで仕切る(設計アトリエ4A)>

しかも珪藻土ボードは消臭効果も期待でき、病室や療養室にも効果的です。また壁のリフォームが難しいときは、ドアやふすまの両面を珪藻土ボ-ドにすることも効果的です。

写真:珪藻土ボードの壁天井の療養室   設計アトリエ4A)
<写真:珪藻土ボードの壁天井の療養室(設計アトリエ4A)>

住まいは夏を旨とすべし「傘の家」

長引くコロナ蔓延や線状降水帯豪雨に苛まれた私たちは今新しい「衣」「食」「住」の生活変容の創造を模索しています。人は老いてなお生きて行かなければなりません。世情変化による節電や地球規模の環境問題だけでなく誰にとっても本来の自然の恵みは古今東西、大きな悦びで創造の源であり文化なのです。

この生活変容を疎むばかりでなく、やっと本来の暮らしに回帰しようと前向きに考えたいものです。そこで改めて住まいは「夏を旨とする」を考えてみるのです。陽当たりが欲しいと言われますがもともとわが国の家は日照なるものを迎え入れる構造にはなっていないのです。

イラスト2: 日本の家は「夏を旨とすべし」高床の家   (画:天野彰)
<イラスト: 日本の家は「夏を旨とすべし」高床の家 (画:天野彰)>

雨や湿気を嫌って深く低い庇(ひさし)に縁側などがあり、その奥に部屋があるのです。深い庇は雨を避け日陰をつくり、床を高く上げ風を通し、冷えた空気を室内に取り入れようとする「傘の家」です。このコロナ蔓延の暑い雨の季節が皮肉にも伝統的な「傘の家」が本来のあるべき姿ではなかったのでは?と教えてくれるようなのです。

2 町の家の風通し『町家』の妙

コロナ禍の今年、あの「こんちきち」のお囃子をやっと聞くことが出来ました。暑い祇園祭の宵山の季節がやってきました。実はこの祭り、わが国の湿気にかかわるのです。

祇園祭と虫干し

「こんちきち♪」のお囃子を聴くあの蒸し暑い祇園祭の宵山の季節は、毎年どさっと梅雨のフィナーレのような大雨があって暑い夏を迎えるのですが最近は、「経験したことのない」ような、線状降水帯の土砂降りになって各地に大きな被害をもたらしています。

しかしこの後は、熱い太陽がじりじりと照りつける暑い夏になるはずですが、今年はどうでしょう。もともとこの祇園祭の宵山とは、古い家々がお宝を一斉に蔵から出し、店先や中庭に並べて公開するのです。これが京の宵山 の風物詩となり、多くの人がこの小路に集まってきます。このことは古い家のお宝の年に一度 の「虫干し」でもあるのです。

写真:やっと巡行祇園祭の山鉾実は虫干し(天野彰)
<写真:やっと巡行祇園祭の山鉾実は虫干し(天野彰)>

あの山や鉾は、さらに大きなペルシャ絨毯などの「動く物干し場」のようで街道を晒しながら練り歩くのです。これこそ古人たちの知恵で、お宝をちょっと皆さんにご披露目と言うことでもある合理的な行事と思えるのです。まさにじっとしていても額に汗がにじむ暑い夏の京都、正反対に凜として凍てつくような真冬、私はどちらも好きなのですが、京都といえば、やはり夏と言う人が多いのです。

都市の暑い家を京の町家で涼しく

上賀茂神社と下鴨神社の葵祭に始まって、宵山、山鉾巡行から五山の大文字焼きと、都の庶民が一丸となって過去と現在を結びつける夏の伝統的祭事を守っています。私は暑い季節になると京都の町家の街並みと中庭を思い浮かべます。

夏でも風が通ります。しかし、多くの人が街に住むようになると、家々は密集し軒を連ね風通しも悪く、現代のようにクーラーの排熱で暑く、音もうるさくとても開放的には暮らせません。時には大火にも見舞われかねません。そこで迫る隣家との間には中途半端なすきまなど開けず、むしろ燃えない壁で仕切って、敷地いっぱいに家を建てるのです。

このままでは窒息してしまうため、家の真ん中に風抜きと日だまりの植栽、すなわち中庭これこそが京都の町家です。

各路地から見る街の景観は、連子格子の家々がすきまなく連続し、路地全体が堂々とした重厚感があり、それでいてしっとりとした佇まいを感じさせます。

しかも京都の街は、古い家自体が今も住まいや商店であり続けているのです。周辺は近代的なコンクリートのビルに囲まれてはいますが、なによりも気丈に伝統的な生活スタイルを守ろうとする住民意識が重厚な京都の街並みをつくっているようにも思えます。それが「京都人」気質とも言えます。

なぜ京の町家は涼しいか?家全体が換気扇?

そこで京都の「町家」のたたずまいを建築的に解析します。

イラスト:ロ・コ・L字型のプランと中庭(画:天野彰)
<イラスト:ロ・コ・L字型のプランと中庭(画:天野彰)>

都市の狭い土地ではイラストのように、敷地の真ん中に家をつくって周囲を隙間のような薄っぺらな庭をつくるより、L字やコの字、またはロの字形のプランにした方がまとまった庭となります。

各戸が接するところは民法上の解釈もありますが、外壁を互いが隣地いっぱいの防火壁にすると中庭はさらに広くなり、京の町家と街並みとなるのです。これで各家は広い中庭で風通しもよくなり街並みもすっきりと涼しげになるでしょう。かといって、京都は盆地のような土地で風もあまりなくなおさら暑いのです。

実は京都の町家の中庭は平面だけではなく立体的にも風通しの工夫がなされているのです。

イラスト:町家は大きな換気扇 画:天野彰
<イラスト:町家は大きな換気扇(画:天野彰>

断面図のように中庭の空気は屋根に当たる太陽の輻射熱によって上昇気流が生じ中庭の空気も共に吸い出すように上昇し、各部屋の空気が中庭に向けて引かれます。

このことは何度もご紹介し、実際にTV番組でも模型をつくり屋根の瓦に強いライトを照射し温め、上昇気流が生じ部屋の空気が中庭に引かれることを線香の煙で見せて放送しました。実際の町家では夕方熱くなった路地に打ち水をすることで気化熱を奪い涼しくさせ、部屋に取り入れることなどを工夫して科学的に千年以上も暮らして来たことに驚きます。

こうしてみると京都を訪れる私たち日本人もすでに「外国人」の眼となって景観ばかりを観ているのかも知れません。

京都に限らず、今や日本中の旧市街もミニ開発され、人も通れないほどのすき間を開けただけの分譲住宅が建ち並び「庭付き」の一戸建てにしようとするためか、庇もなく南に屋根を尖らせた塔状の家ばかりが林立し、街をさらに暑苦しくもしているのです。

3 雨後の“目”ンテナンス

コロナ蔓延の中、これでもかと言わんばかりの灼熱の夏日かと思いきや今度は突然の線状降水帯豪雨が西は九州から果ては東北・北陸などの各地に大雨を降らせ、洪水や土砂崩れを引き起こしていますね。地球規模のコロナ蔓延も過激な紛争も、こうした世界各地の異常気象もすべてが地球温暖化のせいではないかと思われる時世です。

湿気大国日本

とりわけ梅雨時のわが国は、今や「経済大国」ならぬ「湿気大国」で、その勢いは顕著になっているかのようです。そもそもわが国の暮らしや住まいの原点は古今東西すべてが湿気だと言ってもよいほどです。特に今の季節は暑くしかも多湿で、すべてのものが腐りやすく、そんなさなか、河川の氾濫や土石流などで浸水し、泥にまみれた被災地の方々は水道も止まり、片付けや洗浄もままならず、そのご苦労は幾ばくのものかと案じられます。

特に近年の土砂降りや河川の氾濫や洪水はまさに突然襲う激しいもので、大地震にも匹敵する大災害となり、政府の手厚い保証や災害救助発動が必要と言えるのです。

梅雨の後は住まいの総点検運よく被災から免れたどの家も雨漏りや湿気が溜まれば土台や柱に腐朽菌が蔓延し、堅牢な家でも土台から腐っていきます。

イラスト:雨後のチェック項目(画:天野彰)
<イラスト:雨後のチェック項目(画:天野彰)>

「なんでこんなに傷んでしまったのか?」などと嘆くことがないように、梅雨の晴れ間や大雨 の後に、自分の目で家の外壁や基礎部分の雨の染み込みや漏水の具合などを見て診ることが大切です。メンテナンスの「メ」はまさしく「目」なのです。床下収納があればそれを持ち上げて外して、家の床下を自分の目で覗いてみましょう。

地面が湿気ていないか、最悪水が溜まっていないかを確認するのです。

イラスト:住まいのメンテンスは目(画:天野彰)
<イラスト:住まいのメンテンスは目(画:天野彰)>

湿気は屋根から壁から床下から

時に、土台が黒く腐っていることもあります。さらに押し入れの中の天井板を持ち上げ、そこから二階床下や屋根裏の様子や構造の状態をわが「目」で直接見て、デジカメなどで撮っておくのです。

特にメンテナンスが必要なもの

  • ・ 家に取り付けているベランダ
  • ・ 庇(ひさし)
  • ・ 霧除け
  • ・ アンテナや樋(とい)の支え 付け根
  • ・ 電源
  • ・ 電話線
  • ・ エアコンなどの引き込み部
  • ・ サッシ
  • ・ 換気
  • ・ 通気口の周辺
  • などが要注意です。

写真1:竪樋支え染み込み被害(天野彰)
<写真1:竪樋支え染み込み被害(天野彰)>

手の届くところには染み込みや尾垂れの跡などをチョークやテープでしるしをつけ、コピーした平面図や立面図にもその位置を示し、写真を貼り付け、建築士や工務店などの専門家に見せ、さらに詳しく診断してもらうのです。

その上で改善策やリフォーム案などを検討してもらい、概算の見積もりを出してもらうのです。

見積もりも平面図上に記した各部屋、各部位ごとのおおよその「見積もりを描いた図」にしてもらうと理解しやすくなります。

それに工事に伴う仮設代や諸経費、設計費など入れてもらうのです。

これにより今回は補修にするか、あるいは大幅なリフォームか、場合によっては建て替えにするかを家族と話し合うのです。

4 目元涼しい収納美人

暑い! 蒸し暑い!まさに北海道まで含め、全国津々浦々暑苦しい毎日です。しかし、不思議なことに例年の30度以上のカーッと熱い真夏の方が、だらだらとした長梅雨のような蒸し暑さよりも過ごしやすく感じます。日陰に入れば涼しく、風でもあればむしろ快適で夜は涼しくもなります。

あの夏らしい夏が懐かしくも感じられる昨今ですが、都心や密集地ではそうはいきません。風の通りもさることながら、各戸がつけるエアコンの室外機の熱風が、音が窓から入って来ます。

風を室内に呼び込む?

しかし同じ密集した家々でも、風の向きや建物の間や中庭などから涼しい風が入って来ることもあります。私が初めて住んだ学生時代のアパートは、ルームクーラーはおろか扇風機もなく、密集した北東の角部屋で窓を開けると隣家の壁や塀が3、40センチに迫っていました。昼暗く冬は寒く夏は暑苦しい部屋でした。暑さには公園に出て涼んだり、クーラーのある喫茶店で暑さをしのいだりしたものです。

そんなある日、窓の外の草がかすかに揺れていることに気づき手を伸ばすと建物の間の谷間に風が通り、日が当たらず地面も冷えていて涼しく感じたのです。しかし家の窓は風の通りに平行で部屋に風が入って来ないのです。そこに大きなスケッチブックをかざしてみると見事に部屋の中に風を呼び込むのです。そこで建て替えの現場から廃棄の姿見を持ち帰って、隣の家の間に45度ほどの角度で衝立とし、厚いゴムの摩擦で留めたのです。するとどうでしょう!すき間を通ってきた風が見事にわが家に入りました。

イラスト:家の外に、騒音・断熱、室内環境を向上させる工夫天野彰)
<イラスト:家の外に、騒音・断熱、室内環境を向上させる工夫(天野彰)>

物を無くすと涼しくなる!

風のすべてが狭いわが家を通って、もう一方の窓から出ていきます。これは涼しい!しかし筆者が仕事をし、夜寝る所だけは暑苦しいのです。いったいなぜだろうと、たばこの煙で風の流れをみると脇の本棚が風を遮っていることが分かりました。 これは大変、さっそく模様替え。

まず要らないものはすべて処分し、あちこちに重ねられた書籍や資料は壁に沿ってブロックと板で天井まで積み上げ、いわゆる壁面収納として一つの壁に積み上げたのです。

おかげで足の踏み場もなかった部屋中に散乱していたものがすべて積み上げられ、狭い部屋は見るからに広くなり、風の通りだけでなく見た目にもすっきりさわやか、涼しくなったのです。

出窓の効能「プロテクト出窓」の発想?

もっと驚いたことは、外に置いた鏡には、建物の狭いすき間の先の外を通る人が映り込んで見えたのです。今まで“外界”と言えば空しか見えなかった部屋の窓にわずか4,50センチのすき間ながら、外が見える窓となったのです。そんなことで、狭い木賃アパートが生き生きとした不思議な感動を覚えたのです。

“目もと”ならぬ、涼しい風を呼び込み、すっきり視界も広々とし「収納美人」の部屋となったのです。 以来、筆者は、突き出し鏡ならぬ「出窓」を多用し、むしろ正面からの視線や火災や騒音をも防ぎつつ【下記イラスト参照】

イラスト:風を呼び込む出窓。防音ガラスブロック防火(画:天野彰)
<イラスト:風を呼び込む出窓。防音ガラスブロック防火(画:天野彰)>

出窓の左右から室内に風や光を呼び込む「プロテクト出窓」を考案。さらに収納や物を出っ張らせない「壁面収納」で室内をすっきりとするようにしているのです。

写真:プロテクト出窓世田谷T邸(天野彰)
<写真:プロテクト出窓世田谷T邸(天野彰)>

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建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
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