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住宅関連記事・ノウハウ

建築家 天野 彰 地震のリスク コロナ災禍が下火になって・・・?

1 コロナ災禍が下火になって・・・?

コロナ災禍もやや収束の兆し?が見えてきました。涼しくもなり秋の気配も感じられて、灯火親しむ候です。が、関東地方を震度5強の直下地震が襲いました。幸い震源が80㎞と深く大きな被害は出ませんでしたが、これが阪神淡路地震のような浅いところで発生するとされている首都直下地震かと一瞬震撼としました。このコロナ災禍で忘れていた。もう一つの災禍です。秋になってもまだまだ災禍は終わっていないのです。

思い出される耐震偽装事件

考えてみればマンションブームに興じていた16年前の2005年秋11月18日、一瞬耳を疑う信じられないニュースに驚嘆させられたのです。あの耐震偽装です。その動機が行政民活の民間委託として行われ始めた建築確認代行の指定確認検査機関(1998年から)の審査の見落としに乗じ、計算書を偽装したと言うのです。阪神・淡路などの大震災を体験し、今後起こりうる大地震が騒がれている最中、耐震防災の意識とモラルの低下か構造設計専門の建築士が耐震強度の計算式を偽造してコストダウンを図っていたと言うのです。多くの人が住む集合住宅で、それらがそのまま施工され、鉄筋の少なさや柱梁のサイズや壁量など施工関係者の誰も気づかずそのまま建ってしまったと言うのです。

今やルールと言うよりモラルとも言うべき建築基準法で、特にその構造は地震や災害から人の命を守るもっとも大切な基軸で絶対に妥協してはならないことです。しかしこれを教訓に建てる人々、さらに住む人の間に耐震と防災の意識が高まったのも事実ですが、今また高層のマンションが建ち始め第二のブームも起こっているようです。果たして「安全」「安心」は言葉だけのものになっていないかを考える秋ですね。

収納に殺される?

このコロナの自粛で家の中を整理し、思い切ってモノを捨て日常の生活をすっきりさせて人生を身軽にされた方も多いはずです。これからの人生に何が必要で何か不要なのかをチェックすることです。しかしただ「収めて納める」だけでは溜まる一方で、住まいの体脂肪と同じです。

大地震などの災害時にはただ凶器になるだけです。都市直下型の阪神大震災やその後の中越地震ではタンスや本棚などの転ぶ家具や不要な物のために逃げ場を失い、亡くなられた方も多かったのです。タンスや書棚などは確かに物を立体的に整理することはできます。しかし倒れたときはその重量で逃げ道をふさぐばかりか、押し潰される危険もあります。

イラスト:家具がなぜ倒れる?固い物で隙間を詰めれば建物と一体(画:天野彰)
<イラスト:家具がなぜ倒れる?固い物で隙間を詰めれば建物と一体(画:天野彰)>

既成の家具は突っ張り棒ではなく、倒れないよう床から天井まで“すき間なく固いものをはめ込み”固定することが重要です。床、壁、天井に固定されていると家具そのものが倒れることなく中の物も建物と同じ周期で揺れるため飛び出してきません。

収納に助けられる?

しかも建物が最悪崩落した場合で収納家具が退避スペースをつくり出す可能性もあります。造り付けの収納は「究極の生存空間をつくる」のです。阪神・淡路大震災では、鉄筋のマンションや病院が数多く崩落しましたが、死傷者の数を抑えられたのはこうした生存スペースがあったように思われます。

写真:阪神・淡路震災どれが正しいか分からないみな傾いた(写真:天野彰)
<写真:阪神・淡路震災どれが正しいか分からない?みな傾いた(写真:天野彰)>

写真:中越地震:家具の散乱(世田谷南ロータリー:高橋進氏撮影)
<写真:中越地震:家具の散乱(世田谷南ロータリー:高橋進氏撮影)>

もともと鉄筋コンクリートの建物は柱(壁)と梁によるラーメン構造で梁の高さ(梁背)は少なくとも50センチ以上あり、床との間に辛うじて小さな空間も生まれます。この梁の下に収納家具や机が押しつぶされても中身があり空間はゼロにはならず、運よく生存スペース生まれることもあるのです。

災害時にいかに逃げやすいか、また逃げ遅れた時や、閉じ込められた時にどこに身を寄せるかのサバイバル・シミュレーションが重要です。

2 伝統木造に学ぶ耐震と減築?

まずは今の家を「減築」する

「わが生涯で起こり得るこうした事件や変化に対し、あらゆる想定をして思い切った『家の改革』に臨みましょう。大きな家は思い切って『減築』 し、縮めて風通しのよい家にして、余った空間を人に貸し、駐車場にして老後の糧(かて)にもするのです!」

2階を取り去るなど家自体を軽くすれば安心ですし、耐震強化もしやすくなります。これは、東日本大震災直後の混乱の中で書いた私の文章です。

直下型の地震に備えるには“吸震”効果

阪神・淡路大震災などの突き上げるような直下型の揺れや、熊本地震では震度7の揺れが2度たて続けて起こり、多くの建物が耐えきれず倒壊した。

写真:東日本大震災で津波にも持ち堪えた木造伝統建築(仙台沿岸部写真:天野彰)
<写真:東日本大震災で津波にも持ち堪えた木造伝統建築(仙台沿岸部写真:天野彰)>

しかし同様の揺れでも、積雪の多い新潟中越地震では倒壊した家は少なく、東日本大震災の津波でも仙台沿岸平野部では、流失物の衝撃で破壊されるも骨太の軸組木造は軋みと粘りで踏ん張った。衝撃を和らげる木組みの柔軟性と思えた。

写真:阪神・淡路震災以降直下型の応力をゴム幕で吸震測定開発研究(写真:天野彰)
<写真:阪神・淡路震災以降直下型の応力をゴム幕で吸震測定開発研究(写真:天野彰)>

筆者自身、災害時の応力や想定外の事象を想像し臆病となり、計算値だけでなく素材や組み方も気になり、筋交いの矛盾する破壊などを見て、スパン内をゴム幕など柔軟な“吸震”効果を企業と検証し、今日で言う「制震ダンパー」などを試みたのです。

伝統木造の「仕口」の柔軟性と“見える楔(くさび)”の安心と持続性!

そんな中、あの多くの人を乗せて街中を優雅に練り歩く祇園祭の山鉾が縄だけで縛った仕口の技でしなやかに動くことに驚きました。しかも各部材をばらして保管しいつまでも使用できるのです。

写真:祇園祭練りぎしぎし優雅に歩く山鉾と縄の縛り仕口(写真:天野彰)
<写真:祇園祭練りぎしぎし優雅に歩く山鉾と縄の縛り仕口(写真:天野彰)>

改めて地震や風、積雪などの衝撃を仕口の軋みで柔軟に和らげる木組みの「縄組架構」です。互いの材を縄で縛り柔軟に撓(しな)う白川郷の合掌造りは大雪や強風に300年も耐えてきた、持続可能性も考慮しているのです。

写真:白川郷合掌造り木組みの「縄組架構」(写真:天野彰)
<写真:白川郷合掌造り木組みの「縄組架構」(写真:天野彰)>

日本の伝統建築の合理的な耐震技術に驚かされます。あの清水寺の懸崖構造など、巨大な寺院の架構も無数の「仕口」のアローワンス(隙間)で揺れと歪みを柔軟に吸収し、経年変化に対しても各仕口の無数の楔(くさび)で調整することもできるのです。

写真:清水寺懸崖架構の無数のくさびアローワンス(写真:天野彰)
<写真:清水寺懸崖架構の無数のくさびアローワンス(写真:天野彰)>

雪の多い秋田など多雪地の民家も室内から“見える楔”でいつでも金槌で叩いて調整ができるのです。

現代建築の仕口や柱と梁の筋交いを柔軟にする

木造の木と木の組み合わせによる仕口はその素材に柔軟性があります。その補強としての筋交いもあるのですが、太過ぎる筋交いで梁が押し上げられてかえって破壊してしまうこともあるのです。柱材の阪割り以下か半割りほどがかえって撓(しな)って筋交いの役を果たすのです。ここにも柔の技があるのです。

これを現代では鉄筋コンクリート造などの梁間に斜に取り付け補強し、制震ダンパーを取り付け地震時には収縮し、応力を吸収するのです。

写真:合板で柱梁間裏打ち補強と吸震効果(當光寺耐震改修:設計アトリエ4A)
<写真:合板で柱梁間裏打ち補強と吸震効果(當光寺耐震改修:設計アトリエ4A)>

木造建築の耐震強化ではリフォームの際に室内側から12か16㎜厚の合板で裏打ちすると工費も安く補強と吸震効果も期待できるのです。

3 防災から減災の発想?

伝統建築の“やわら”の“いなす技”は防災にも言えます

“人と街”との防災も、「グラッと来たら火を消す!」から「まず身を守る」と、人の命が第一優先へと変わり、災害を“いなし”“かわす”「柔の減災」と言えます。既に警鐘されている南海トラフのメガ地震でも付近の地底深くの圧力測定をして、広範の歪の測定から合理的な予測で避難に役立てようとしているのです。

何が起こるか想定できない今日ですが、災害は止めることはできなくてもあり得る事象を想像して、それを“いなして”命を守ることも「減災」と言えます。

まずはわが家が防災の一役を

あの木造の高層の五重塔などは中心の芯柱がすべての層の桁材をバランスよく受け止め、引いて風や地震の衝撃を八方に分散し建物全体で吸収して各部材の負担を軽減しているのです。これこそ世界が注目する“やわら”の「柔構造」と言えるのです。一軒一軒の家が耐震補強することは都市防災にも役立ちます。それにはバランスの良い壁の配置と補強で、壁自体のパワーを持たせるのです。それこそ柱と梁の間をベニヤ板で釘か接着剤で貼り付け粘りを持たせるのです。あの2×4(ツーバイフォー)の利点を活かし、なおかつ在来の柱梁による軸組で耐久性もより高くするのです。

リフォームの際、今の内外の壁をはがす時にベニヤ板やボードをこの柱と柱、土台と梁(はり)の間に多くの釘で打ち付けるだけで、割安で筋交いの倍ほども強くなり、ベニヤ板だけのツーバイフォーよりも住みやすく快適で耐久性もよくなるのです。

イラスト:無筋の基礎の周りにもう一重の鉄筋の基礎をつくる(画:天野彰)
<イラスト:無筋の基礎の周りにもう一重の鉄筋の基礎をつくる(画:天野彰)>

足回りが心配なら従来の無筋であった基礎の外側にぐるりと鉄筋入りの二重の基礎を造って家を取り囲み外郭をがっちり固めるのです。この“ベニヤ板の耐震補強”は家一軒で二十枚ほど、わずか4・50万円の費用で大地震に生き残れるはずです。が、なぜか実際のリフォーム現場ではシステムキッチンやインテリアなどが優先されてしまうのです。せっかくの快適リフォームをしても命取りにならないように、できる限りの耐震補強に費用を充てたいものです。

津波をやり過ごす創造的街づくりとは

さあ、あの巨大津波の大災害にもめげず、悲観的に考えないで、長い人生、家づくりはいかなる災害にもめげない安全で快適で、しかも積極的に“活きる”ための家づくり街づくりを“想像”し創造するのです。

日本では沿岸部に巨大な防潮堤が建設され高台移転も進んでいますが…。もともと沿岸に住む人たちは古来海と共に生き、津波などの被害を想定して高台への避難などを考えて来ました。その基本思想が失われ、街づくりが問題となっています。私どもは災害直後、そうした巨大津波にも耐えうる、いざとなったら車両や漁船や器材とともに逃げ込める円型のコロニーづくり(イラスト:中国永定にある客家〈はっか〉の土楼)のような、全周防潮堤の緊急避難施設と10メートルほどの津波ならやり過ごせる堅固な橋梁の上の街などをNHKTVで提案もしているのです。

イラスト:中国永定の客家の土楼のように逃げ込む。波をやり過ごすスカイシップの街 高所避難所でもある 2011年「建築再生展」での東日本復興のアイデアコンテスト提案例。同年5月NHK放送(画:天野彰)
<イラスト:中国永定の客家の土楼のように逃げ込む。波をやり過ごすスカイシップの街 高所避難所でもある 2011年「建築再生展」での東日本復興のアイデアコンテスト提案例。同年5月NHK放送(画:天野彰)(画:天野彰)>

こうして景観や環境を損ね、漁業にも支障を与えかねない、受けて立つ巨大な堤防をつくる防災よりも、円型の擁壁や舟形のピアは波の打ち返しをやり過ごすだけで、抵抗も少なくはるかに低予算でしかも人々は今まで通りその沿岸のその場所に住め、街が活性化すると思うのです。これこそが減災なのです。

4 減災の心得は命を守る想像力

まずはわが命を守ること

東日本大震災でも地盤からの被害を受けた建物も多い(写真:天野彰)
<東日本大震災でも地盤からの被害を受けた建物も多い(写真:天野彰)>

あの衝撃的な東日本大震災以来、熊本などあちこちで地震の揺れが人々を驚かしています。阪神・淡路のあの都市での直下の悲惨な震災からあっという間に27年になろうとしています。直下型の阪神・淡路大震災での衝撃的で、貴重な教訓は、果たして生かされているのでしょうか?あの発生が懸念されている東海地震や東南海・南海地震の巨大地震について政府の中央防災会議(当時小泉純一郎会長)が示唆した規模は桁違いのもので、しかも明日来てもおかしくないと言うものでしたが、現在はコロナ災禍のせいなのか?話題にもなっていないのです?

ただでさえ都市のインフラは既に大部分が老朽化し、あちこちで支障も出ています。それらの改修工事もままならない中でさらなる新たなインフラを求めた工事を行い、突如街の真ん中の地盤が陥没して大きな穴が開き、水脈に異常をきたす事態も各地で起きているのです。

今住む家を見て危なそうなところを探ってみる

減災はそこに住む人のちょっとした心がけ次第で行えます。まずは身の回りの危険や異常を察知して如何にわが身を守るかを考えるのです。必要なら自身で出来る簡単な耐震補強をし、取りあえずわが身わが家族の命を守ることを考えるのです。

外壁から二階までの柱を添えて新たな通し柱をつくる(画:天野彰)
<外壁から二階までの柱を添えて新たな通し柱をつくる(画:天野彰)>

イラストのように今の住まいの外から2階までの補強柱で新たな通し柱をつくることもできます。この簡単な補強で家は数倍強くなるのです。

今住む家の周辺の状況と地盤を観る

阪神・淡路地震や熊本地震にしてもあの恐怖の揺れや長く続く余震による避難生活の不安や不自由さや建て替えや修復工事の出費を迫られその街と家を捨てた人も多いのです。しかし残念ながら日本のどこに行っても地震や災害から逃れることはできないのです。都市直下型の阪神・淡路地震の犠牲者の多くは圧死と類焼火災により、東日本大震災では巨大津波での溺死でした。そこでわが家が建っている街やその位置、そしてわが家のその土地がどの部分に相当するかを知ることが大切です。

地盤によって揺れ方が違う(画:天野彰)
<地盤によって揺れ方が違う(画:天野彰)>

まずは各市町村にあるハザードマップ、海抜を示した地形図を入手し、新興宅地であれば申請に使った造成図などを見せてもらうか、担当した施工者や役所に問い合わせることも可能なのです。

自身では家の周辺を散歩しながら、対面の離れた高台やビルなどから眺めて見ることです。おぼろげながらわが家が削られたところか土盛りされたところかなどが分かってきます。古くから住んでいる人の話などを聞くことも状況が見えてきます。

減災は街の皆がオオカミ少年になること

周辺の地盤やよう壁を見て地面やコンクリートにひび割れを探り役所に見てもらうことも大切です。あの静岡、熱海の悲惨な土砂崩れ以来、自治体はどこも地盤の異常には行政責任の警戒心を持っています。もしかしたら大きな災害を未然に防ぐことになるかも知れません。皆の命を救うことになるかも知れません。“オオカミ少年”になるかも知れませんが、勇気を持って訪ねてみるのです。それこそが皆で守る減災の心得なのです。

こうして地盤や地形が分かったところで、わが家が隣地や道路から下がっているとか、崖の下などの場合は雨の日などの雨水の流れや水はけなどに注意をします。水が溜まっていると家が腐りやすく、なによりも湿気やカビで家族の健康によくありません。

曳家やジャッキアップして新たな基礎をつくる(写真:天野彰)
<曳家やジャッキアップして新たな基礎をつくる(写真:天野彰)>

その地に住みたいのであれば、モルタルや石灰などを注入して地盤改良をしたり、思い切って今の家を壊して杭を打って新たな土を加えてしっかり顛圧(てんあつ)したり、曳家やジャッキアップをして新たな基礎をつくることも出来るのです。

建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
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