住宅関連記事・ノウハウ
2025年1月21日(火)
断熱性能が高い住宅は健康維持で工事代金の回収ができる
住まいと健康の関連について キッチンの高さと腰痛との関連について
家事と腰痛
住まいの満足感は、日々の家事が楽しいと高まるようです。慢性腰痛を経験したことがある女性を対象に、居住環境・家事といった生活行動が慢性腰痛・ストレス等に与える影響を調査した論文が公開されています。この論文を要約する
満足度が高い住まいになると家事の楽しみが増えることから、ストレス・疲労感が減って慢性腰痛が減少するようです。
- ・運動習慣がない方にとって、家事を長く楽しめる住まいが腰痛を減少させる可能性があります。
- ・高齢期には家事を楽しめる住まいが、ストレス・疲労感や慢性腰痛を軽減する効果が期待できるようです。
- ・キッチンの高さ感が適切な場合において、家事の時間が長くても慢性腰痛がわずかに減るようです。
適切なキッチン選び
住まいのストレス・疲労感は慢性腰痛への影響が大きく、多くの時間を過ごすキッチンの高さを適切に整えることで、長い家事時間でも腰痛が軽減される、ということです。
- 家事の快適さを考えた家づくりが満足度を高める
- 適切なキッチンをしつらえることは、住まいと健康の関連において重要な要素、といえます。使いやすいキッチンにするためには、並行して適切な収納も考える必要があります。また、室内の暑さ・寒さが高血圧の原因になったり、ヒートショックの危険性が高まる要因になっていること。あわせて住まいの過度な湿気が結露・カビの発生を促しアレルギー疾患を引き起こす可能性を高めることは、広く知られていることです。家事や収納の優先順位を下げて性能スペックに偏った住まい選びにこだわるのではなく、日々の生活の基本となる家事の優先順位も高くした住まい選びが、長期間にわたり快適に過ごせる住まいになることは間違いないようです。

参照論文
- (参照論文) http://ci.nii.ac.jp/naid/130004937090
- 国立情報学研究所 学術情報データベース(CiNii)収録
- 居住環境と家事が慢性腰痛に及ぼす影響の属性別分析
- COVARIANCE STRUCTURAL MODELING-BASED MULTI-GROUP ANALYSIS
- AMONG LIVING ENVIRONMENT, HOUSEWORK AND
- CHRONIC LOW BACK PAIN
- 長澤夏子, 堤仁美, 松岡由紀子, 加藤龍一, 秋元孝之, 田辺新一著
結露・カビはアレルギー症状の原因のひとつ
結露・カビとアレルギー
- 読者の皆さまもご承知の通り、結露・カビの発生はアレルギー症状の発生要因として知られています。なかでも、ほとんどの家庭で行なわれているリビング・ダイニングでの部屋干し。見た目や臭いの問題はもちろんのこと、結露・カビが発生する懸念が高まる原因のひとつと考えられています。
- ※出典:洗濯物の室内干しに関する調査研究
- 佐賀大学大学院 工学系研究科博士前期課程 都市工学科専攻 小渕 真弓
- 佐賀大学 文化教育学部 地域・生活文化講座 澤島 智明
- Survey of Indoor Laundry Drying Mayumi OBUCHI, Tomoaki SAWASHIMA
結露・カビと換気
- 結露・カビの発生と関連づけられる生活習慣について分析した調査は、いくつか公開されておりますが、東北大学・吉野博名誉教授の論文(※)によると、「洗濯物は居間において顕著に結露やカビの発生リスクとなっている。常時換気を行ったとしても、洗濯物からの湿気の発生量に対して換気量が不足していると推察される。」とされています。住宅の築年数が古ければ古いほど、戸建住宅と比較して気密性の高いRC造集合住宅は、結露・カビの発生リスクが高まります。※出典:吉野博、北澤幸絵、長谷川兼一(2014)
- 「住宅における結露・カビの発生要因に関する調査研究」
- 『日本建築学会環境系論文集』pp.365-371
結露に関するアンケート
清掃機器の最大手メーカードイツ・ケルヒャー社の日本法人、ケルヒャー ジャパン株式会社が2017年1月に発表した結露に関するアンケート(※)でも、同様なことが述べられています。調査によると、自宅で結露する方は77%にもなり、結露によるカビが発生したことがある家庭は69%、部屋干しを「する」「時々する」と答えた方は87%に上ります。結露が発生すると、ぞうきんやタオルを使って拭き取る方が大半ではありますが、意外にも「特になにもしていない」という方も多数いらっしゃるようです。※出典:ケルヒャー ジャパン株式会社結露アンケート調査 2017年1月

換気不足や窓の断熱性能が低いことも結露の原因
壁材と結露の関係
最近では新築・リフォームを問わず、内装の仕上げで話を聞く機会が増えている調湿性能をもつ塗り壁や木質系の壁材を使って壁の結露を抑えると、窓・窓際やカーテンへの結露の発生を抑えることができるかもしれません。結露の原因のひとつとされている換気量の不足では、調湿性能をもつ仕上げをしたとしても換気が不足しがちな押入れや家具の裏にカビを発生させる可能性は十分に考えられます。あわせて、結露が発生する原因は、室内の暖かく湿気を含んだ空気が室外側から冷やされるため、暖かい空気に含まれた湿気(水蒸気)が凝縮して結露(水)に変わるためなのです。窓やサッシの断熱性能が低ければ低いほど、外気によって窓やサッシが冷やされていきます。高い室内温度・低い室内湿度でも窓やサッシへの結露がひどくなります。洗濯物の部屋干しをはじめ、日々の調理や入浴はもちろん、水槽や観葉植物からも水蒸気は発生しています。水槽や観葉植物をディスプレイしているリビングダイニングで洗濯物の部屋干しをして、リビングダイニングの近くにある浴室のドアを開けたまま節電のため換気扇を運転させない状態での生活を普段から続けていると、結露とカビを著しく増やしてしまうことは間違いないようです。

新築の場合は、換気扇や窓・サッシの断熱性能など仕様も重要
現実的な結露対策
結露やカビを防ぐためには、調湿性能を謳う仕上げにこだわる前に、洗濯物の室内干しをやめるのが最善ではありますが、そもそも洗濯物の室内干しはやむなく行なうものです。結露やカビを防ぐため、現実にそぐわない生活習慣を変える努力をするよりも、新築はもちろんリフォームの優先順位のつけかたとして、適切な換気扇の選定と設置はもちろん、断熱性能に優れた窓・サッシ、お住まいの地域にあった適切な断熱仕様を施すことが、より現実的な結露・カビ対策であることは間違いありません。
24時間換気システム
- 24時間換気設備は適切なメンテナンスが重要です。皆様でもできることは、定期的にフィルターを清掃(目安は3ヶ月ごと)・フィルターの交換(目安は1年ごと、穴が開いているときは随時交換)です。
アレルギー疾患のリスク
- アレルギー疾患のリスクは室内の過度な湿気も大きな要因
- 住居内が過度に湿気を帯びて結露・カビが発生する状態(ダンプネス)の程度が重くなればなるほど、その家に暮らす子供が喘息やアトピー性皮膚炎にかかるリスクが高くなるります。また、冬期は室内環境の影響が大きいことが示されています。
アレルギー疾患の有病率について
- 各種アレルギー疾患の有病率について
- ・ダンプネスの程度が重い場合の有病率はアレルギー性鼻炎が2倍、喘息は1.7倍に高まることが示されています。
- ・アレルギー性鼻炎と喘息の有病率は 換気設備の仕様の有無をはじめ、工業地域、河川などの屋外環境も影響することが示されています。
※出典:国土交通省 健康維持増進住宅研究委員会 10.03.24 資料No.5
(平成 19~21 年度)健康影響低減部会 活動概要
※出典:住宅のダンプネスのアンケートによる評価法の提案と子供のアレルギー疾患に及ぼす影響に関する全国調査
長谷川 兼一/鍵 直樹/坂口 淳/篠原 直秀/白石 靖幸/三田村 輝章
日本建築学会環境系論文集 81(723), 477-485, 2016
冬期間の結露・カビを防止する方法
暖房器具について
- 室内の湿度を上昇させる原因となる器具などは置き換える
- 部屋干しはもちろん、開放式の灯油ファンヒーターも燃焼した灯油とおなじ量の水蒸気を発生させるため、他の暖房器具に置き換えましょう。
換気設備のメンテナンス
- 注意点
- 24時間換気設備は適切なメンテナンスが重要です。皆様でもできることは、定期的にフィルターを清掃(目安は3ヶ月ごと)・フィルターの交換(目安は1年ごと、穴が開いているときは随時交換)です。
アレルギー疾患のリスク
- アレルギー疾患のリスクは室内の過度な湿気も大きな要因
- 住居内が過度に湿気を帯びて結露・カビが発生する状態(ダンプネス)の程度が重くなればなるほど、その家に暮らす子供が喘息やアトピー性皮膚炎にかかるリスクが高くなるります。また、冬期は室内環境の影響が大きいことが示されています。
アレルギー疾患の有病率について
- 各種アレルギー疾患の有病率について
- ・ダンプネスの程度が重い場合の有病率はアレルギー性鼻炎が2倍、喘息は1.7倍に高まることが示されています。
- ・アレルギー性鼻炎と喘息の有病率は換気設備の仕様の有無をはじめ、工業地域、河川などの屋外環境も影響することが示されています。
※出典:国土交通省 健康維持増進住宅研究委員会 10.03.24 資料No.5
(平成 19~21 年度)健康影響低減部会 活動概要
※出典:住宅のダンプネスのアンケートによる評価法の提案と子供のアレルギー疾患に及ぼす影響に関する全国調査長谷川 兼一/鍵 直樹/坂口 淳/篠原 直秀/白石 靖幸/三田村 輝章 日本建築学会環境系論文集 81(723), 477-485, 2016
快適な暮らしは、適切な換気設備や暖房器具を選ぶことが重要
住まいと健康
月々1,000円程度の電気代はもちろん、暖房器具本体価格は安価でも湿気を発生させてしまう暖房器具を多く利用することで、アレルギー症状がひどくなってしまい、節約した電気代・暖房器具代以上に医療費がかかってしまったのでは元も子もありません。また、新築・リフォームを検討するときは、調湿性能に優れた壁材などを選ぶことだけがダンプネスを抑える方法ではなく、お住まいの地域、周辺の環境にマッチした適切な換気設備・適切な暖房器具を選ぶことのほうが、より優先順位が高い項目なのです。

住まいの「断熱性能」を向上させる住まいづくりが冷え症の方には必要
冷え症と室温
冷え症の方々には辛い冬において、室内温熱環境や室内温度差が冷え症をお持ちの方と非冷え性の方に与える影響を生理的・心理学的な側面から詳細に比較検討する実験結果が公開されています。この実験結果によりますと、冷え症にお悩みの方ほど住宅の断熱性能を高めておかないと、快適には過ごせないことはもちろん、気温の変化によって急激に血圧が上下してしまい、脳内出血や大動脈解離、心筋梗塞、脳梗塞などの病気が起こる(ヒートショック)可能性が高まることが発表されています。20歳代~40歳代の女性6名(冷え症者3名/非冷え症者3名)が外気を模倣した人工気象室内で行なった実験で得られた知見ですが、心理的測定結果において興味深い結果が示されました。室温21度程度に暖房された部屋から、室温14度・16度・18度の暖房されていない部屋に移動すると、手・足の「指先皮膚温」はそれぞれ低下するようですが、暖房されていない部屋の室温が最低15度以上あれば、手/足末梢の皮膚温は不快域とされる18℃以下にはならないことが示されています。心理的な側面で冷え症の方が感じている暖かさ・冷たさと快適か不快かという感覚について観ると、室温が15℃以上でも「不快」と申告する方が大半であったことが述べられています。冷え症の方は手足末梢の皮膚温が高い場合でも、一日中かなりの冷えを感じているのです。逆に、非冷え症の方では全身の寒さを比較的不快に感じにくいことも示されています。これは、住宅の断熱性能が向上して暖房されている部屋と暖房されていない部屋の温度差が6℃以下であったとしても、冷え症の方にとっては寒い部屋でありその寒さ感は、非冷え性の方には実感してもらえない、ということです。非冷え性の方には快適な室温だとしても冷え症の方にとっては寒くてたいへんということです。
ヒートショックのリスク
非冷え性の方は周囲の温度変化にとても敏感に反応しますが、冷え症の方は急激な冷えを感じてしまうと、終始冷えを感じたままになってしまうそうです。これは、暖房されていない部屋の温度差が6℃を超える場合でも終始「寒い」という感覚が変わらないことから周囲の温度変化に対し敏感ではなくなってしまい急な室温低下に対処しきれずヒートショックを起こしてしまう可能性が高まるということです。ヒートショックは65歳以上の高齢者、高血圧や糖尿病などの動脈硬化の基盤がある方、肥満や睡眠時無呼吸症候群、不整脈をもっていると影響を受けやすくなります。冷え症をお持ちで、上記のような不調をお持ちの方ほど、医療保険はもちろん新築・リフォームのときに住宅の断熱性能を向上させることは、高い優先順位になることは間違いないようです。
- ※1 出典:日本建築学会環境系論文集 第80巻 第709号 2015年3月
「冬期住宅における冷え症者と非冷え性者の生理心理量の比較」
都築 弘政/齊藤 真理子/田辺 新一 著 - ※2 出典:人工環境デザインハンドブック,丸善,pp.67,2007.12.1 栃原 裕 著

室温を適正温度に保つことで、血圧をおさえる
室温と血圧
ある程度の年齢にさしかかると気になる方々も多い「血圧」。血圧は、年齢・性別・生活習慣の要因だけではなく、住まいの室温にも大きく影響されます。室温と家庭血圧の関連についての調査によると、年齢・BMI(肥満度を表す指数)・性別と血圧の関係に加えて、居間・寝室の室温との間にも大きな相関関係が見られることがわかりました。(※1)この調査によると、室温が10℃低下すると60歳の方は起床時血圧が3.8mmHg上昇し、70歳の方では起床時血圧が5.5mmHg上昇していることから、高齢者ほど室温が血圧に及ぼす影響が大きいことがわかりました。あわせて、山口県・高知県の実測調査では、低断熱住宅では高齢者の高血圧者の割合が高くなっています。平均10℃低い家にお住まいの方の起床時血圧は3.8mmHg高く、個人レベルでは、さらに1.9mmHgも高いことが示されています。住宅内の室温が外気温に比べ1℃低い環境化では、収縮時血圧が0.38mmHg高く、平均室温が1℃低い住宅に住んでいる方は、同じ室温下であっても収縮期血圧が0.19mmHg、拡張期血圧が0.23mmHg高いことがわかりました。食生活や生活習慣病の改善で血圧を抑えることはもちろんですが、寒い住宅に住み続けることで血圧が高くなってしまうことが証明されていることから住宅の断熱性能を高めるだけでも、血圧を下げることができる可能性があるわけです。高血圧が問題視される理由は、みなさまご存じのとおり脳血管疾患と心疾患(虚血性)の4つの危険因子(※2)のひとつとして捉えられているからですが1.5mmHgも血圧を低下させることは、並大抵のことではできません。(※3)
高血圧発病のリスク
別な調査では、寒い住宅の10年後高血圧発病リスクは6倍を超える調査結果(※4)も発表されている一方、(0時に18℃未満の住宅居住者高血圧発病リスクは6.67倍)断熱化で室温が平均2.7度上昇したのに対し最高血圧は同1.0mmHg低下し、室温が上がるほど血圧は下がる傾向がみられました。(※5)ほか、暖かい住まいに住むことで健康寿命(要介護ではない)を4歳延伸させる可能性も発表されています。(※6)寒い住宅の弊害とは、ヒートショックによる影響はもちろんですが高血圧に代表される慢性的な疾患を引き起こす大きな要因にもなるわけです。高齢者と呼ばれるみなさまはもちろんですが、親御さんといっしょに住む計画を抱いているみなさまも、親御さんの将来的な健康維持を考えて住宅の高性能化を真剣に考えることも、間取りや耐震性向上と同じように大切なことであることは間違いないようです。
参考資料
- ※1 出典:日本建築学会環境系論文集 80(715), 703-710, 2015
「マルチレベルモデルに基づく室温による家庭血圧への影響:-冬季の室内温熱環境が血圧に及ぼす影響の実態調査 (その2)-」
海塩 渉/伊香賀 俊治/安藤 真太朗[他]/大塚 邦明 著 - ※2 出典:健康日本21(第二次)厚生労働省4つの危険因子として、高血圧のほか、脂質異常症・喫煙・糖尿病が挙げられています。
- ※3 出典:健康日本21(第二次)厚生労働省食生活改善で2.3mmHg、身体活動で1.5mmHg、飲酒を控えると0.12mmHg、降圧剤の服用率を10%高めることで0.17mmHg改善することを目標としています。
- ※4 出典:JST科学技術振興機構「健康長寿を実現する住まいとコミュニティの創造
(伊香賀 俊治/星 旦二/高知県梼原町) 」社会実証事業 - ※5 出典:一般社団法人 日本生活習慣病予防協会 2017年01月19日家を改修すると血圧が下がる 断熱化すると室温が上がり血圧が低下
- ※6 出典:住宅内温熱環境と居住者の介護予防に関するイベントヒストリー分析-冬季の住宅内温熱環境が要介護状態に及ぼす影響の実態調査-
林 侑江/伊香賀 俊治/星 旦二/安藤 真太朗 著


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