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住宅関連記事・ノウハウ

建築家 天野 彰 狭楽し収納法 無駄なモノを見つめて“仕舞う”

1 収納家具(場所)を積み上げて生活スペースを確保する

いよいよ「暑さ寒さは彼岸まで」の秋彼岸です。彼岸と言えば「夏物冬物の入れ替えの季節、収納の季節でもあります。その収納も最近は春秋わざわざ入れ替える人も少なく、比較的大きなウォーキング・クローゼットや壁収納に一挙に収め、春秋恒例だった虫干しや納戸なども無くなってしまったようです。
しかし長寿で人生が長くなればなるほどどうしても物が増え、しかも老いて物をしまい込むことも苦手になるのです。どれほど収納を多く設けてもいちいち所定の場所には入れずどこに入れたかも忘れてしまいます。

日本の家は1/3が家具や収納のスペース?

そこで収納を多くすることよりも原因のモノを少なくすることが流行り、終活やら断捨離など少々人生を焦らせるような言葉がまかり通って、しまいには収納アドバイザーや名人、達人のなる人も現れているようです。実はこの「収納」はわが国の柱だけの壁のない家では「納戸」や「蔵」なる部屋を設けて生活の場には置かず物をしまい込む文化であり、わが国の「“設え(しつらえ)”」と「“仕舞う(しまう)”」伝統的な文化なのです。「しつらえ」は生活の場と季節と歴史をつくり、「しまう」は生活スペースからモノを追い出し片づけ“仕分けて舞う” 美の文化とも言えるのです。本来それが収めて納める“収納”なのです。

実はこのことは現代の狭苦しい都市でのワンルームの生活にも通ずるのです。まさに物の多さは生活スペースを圧迫しさらに狭苦しくなります。その生活スペースコストは坪(畳2枚)あたり2~300万、家賃では1~2万/月もするのです。これは畳1枚にごろ寝をするだけで100~150万円、家賃では月1万円で、なんと家具や収納、電気製品などモノのスペースが全体の3分の1以上をも占めると言われているのです。すなわち3千万円のマンションでは、およそ1千万円をもモノのために払っていると言うことです。これは大変です!まずは不要なものは思い切って片づけて捨て、物や家具は立体的に積み上げてしまうのです。現代の「仕舞う」と立体に「設える」ことです。

楽しく暮らすために、モノを捨てるのではなく拾う

実は私の「狭“楽”しく住む」なる言葉はこの物の多さと生活コストから出た言葉なのです。それこそ物に溢れる家を天井までの「立体収納」です。
すると今まで足の踏み場もなかったリビングはびっくりするほど広くなり楽しく暮らせるようになるのです。狭苦しい家の“苦”を取り去れば楽になり、さらに“楽しく”なる。そう「狭“楽”しくなる」のです。

家具の積み上げで広いスペースが生まれ家事が楽しくなる(画:天野彰)
<イラスト:家具の積み上げで広いスペースが生まれ家事が楽しくなる(画:天野彰)>

ではその狭楽し収納方法とはどうするかですが、まずは片づけて「捨てる」のですが、そうは簡単に物は無くなりません。それこそが「仕舞う」技なのです。そのために家にあるモノをすべて出して、そこに広げて眺めて見つめるのです。そして必要なものだけを拾う?

そう「捨てるのではなく拾う」のです。それにランクを付けて仕分するのです。そのランクこそ「時」と「思い入」と「想い出」です。これだけで収納の場所と大きさが決められるのです。

2 収納の形と場

“収納”とは収めて納めるところで、まさしく物を入れる所なのですがむやみに入れるだけではだめです。なんでも収納を多く!は間違いなのです。扉が多すぎて、どこに入れたのか分からなくなりいざとなるとパタパタと開けて探すことになります。特に屋根裏や床下収納は入れたらもうおしまいで“お終い”となるのです。いずれ老いてはよじ登ったり、屈んだりは危険でできなくなり、二度と出せなくなります。本人も物も「死蔵」となるのです。

そのためにまずは仕舞う前にすべての物を目の前に置いてよく眺め、しっかり目に“収めて”その上で“納める”のです。そのコツとはわが生活行動を考え整理し、その物とわが生活行動をリンクさせるのです。まずは玄関には靴や外套や雨具があるのが当たり前で、トイレにはトイレットペーパーで「おーい!かみーッ」とはならないのです。同様に洗面脱衣室には取りあえずのタオルや下着などがあれば慌てて裸で取りに行くことにはならず、ストックなどは寝室のタンスやクロゼットにきちんと納めるのです。こうして収納は日常のすべての生活のそれが“そこ”にあれば便利なものを配置する。設計やリフォームの際に人の動線プランと重ねて合わせて“物のプラン”もつくる「どこでも収納」なのです。

イラスト1:収納にも間取りがある?(画:天野彰)
<住む人のプランとリンクする収納(画:天野彰)>

しかし実際の生活では収納の選り分けや配置に困るものも多いのです。そんなときは取りあえずの“一時保管所”を「なんでも収納」で、それぞれ生活行動の大きな「食う、寝るところに住むところ」の3区分に分けて、それぞれの場所にはてな?物をプールするのです。これを私は「ポケット収納」と名付け、そこから住まい全体の収納を整理して行くのです。

手を伸ばせば直ぐに物が届くポケット収納

まずは「食う」と「寝る」は生活の中でも物が多いゾーンですが、しかし生活区分がはっきりしていて物もまとまっているので比較的整理しやすいものなのですが、ま、これが落語で言う江戸の裏長屋の熊さん八っあんの、あの「食う寝る」は、九尺二間の四畳半ほどのスペースで、ここに親子が重なり合って住んでいたのですから物も人も大変で、まるで部屋のすべてがポケット収納のようなものなのでしょうが、反面手を伸ばせばすべての物に手が届いてさぞかし便利だった?かも知れないのです。

イラスト:収納にも間取りがある?(画:天野彰)
<住む人のプランとリンクする収納(画:天野彰)>

なんと!この手を伸ばせばすべてに手が届くことは、高齢になって身体が不自由になると、むしろ便利では?などと皮肉にも長寿社会では見直されていることのかも知れません。

3 収納は多ければ良いと言うものではない

いざリフォームや新築の設計となるとなぜか「シューノー」「収納ー!」となり、しかもあれはここ、それはあそこ、と実に細かく分けその緻密さに驚くほどなのです。残念なことにそれが設計の打合せ時間の半分以上にもおよぶことも多く、もっと構造や材料、環境や断熱さらに安全防災やエルギーなどにもっと時間を割き、将来をどう暮らすかなどに知恵や予算を費やしたいと思うのです。

いざ引っ越してみると、どの収納に入れるのかを考える余裕もなく、その後の忙しい日常に追われて時間もなく、結局引っ越しで運んだままの段ボールがいつまでもその場や書斎などのテーブルに積まれていることが多いのです。

改めて現実の暮らしに本当に役立つ収納とは何かを考えてみると、生活ごとのクロゼットやユーティリティーのような大雑把な物入が一時置き場感覚のあの「ポケット収納」が重宝で心理的にも安らぐのかも知れません。ここに段ボールを取りあえず積み上げて、のちに落ち着いたらゆっくり要不要を選別して整理するのです。

とりあえずの収納「ポケット収納」

実は建て替えやリフォームなどの際、いったん家を空け物を運び出し、また新居に戻って帰る間の往復で大きく2度にわたり物の整理が行われ、多くの物が処分されるのです。この一次預かり所から各収納場所への片づけの際にもう一度整理を行うことができ、合計で3度の片づけができてかなり物が少なくなるのです。「あら?意外に物が少なくて収納が余ってしまった?」などはよく耳にする話なのです。

こうしてこのポケット収納はまずは持ち込みの一時保管?場所であり、行き場不明の物や、季節毎の頂き物や雑誌新聞などを置く生活の“隠しポケット”ともなるのです。あちこちきっちり小分けしてある収納より、クロゼットのように中は扉を付けず剥き出しの棚やラック、ハンガーなどにランダムに置いたり掛けてある方が一目瞭然で分かり探しやすいのです。忙しい毎日物のために細かく神経質を遣い整理するなど人生の無駄遣いなのかも知れないのです。ちなみに私の取りあえずのポケット収納とは大きめの食卓テーブルです。ここで原稿を書いたり、食事をしたりもしますが、物が溢れてきたら仕方なく片づけるのです。身近に資料があり安心で、楽で原稿も進むのですが、やはり剥き出し過ぎて今にも本の山が崩れそうで「まるで物の中で食事をしているようだ」と家族には嫌われていますが。

テーブルの上の資料の山。ここでご飯も食べる?(写真:天野彰)
<写真:テーブルの上の資料の山。ここでご飯も食べる?(画:天野彰)>

収納は極力扉などを付けず見え化すること

ともかく本来「収納」とは収めて納めるのです。しかし同時に出すことが重要なのです。その意味では「出納」が正しい?のです。なるほど役所や銀行の窓口ようですが、むしろ出すことを主とした効率の良さが優先なのです。収納はその納めた場所が常に目に触れることが一番なのです。

右:天井までの収納棚開けると中がすべて見えて確認できる本棚 左:テーブルの後ろに取りあえずの剥き出しなんでも棚(写真・画:天野彰)
<右:天井までの収納棚開けると中がすべて見えて確認できる本棚 左:テーブルの後ろに取りあえずの剥き出しなんでも棚(写真・画:天野彰)>

この見える収納とはまずは棚を整然と置き、下から奥行きの深めな棚にし、そこは足が触れるので扉を付け。上の方の棚は物が落ちたり掃除もしにくいので扉を設けるのです。もちろん飾り棚のようにガラス戸でほこりを除けるなど極力見えるようにすることです。その意味で住まいの各生活のクロゼットは狭くても入れる部屋にして締りの良いドア一枚で仕切ってほこりを防ぎ、中はすべてオープンにすることが使いやすいのです。

ウォーキング・クロゼットの片隅のポケット収納。(写真:天野彰)
<ウォーキング・クロゼットの片隅のポケット収納。(写真:天野彰)>

室内側にある収納もできるだけ塞がずに透明にして扉を極力避け何度もドアを開ける手間を無くし、やむなく扉を付ける時は写真のように床から天井までの高さにして一度開けたら中身がすべてが見えて常に確認ができるような工夫が大事です。

あのパタパタと扉を開けてモノを探す労力をなくすことがスマートな収納スタイルと言えるのです。

4 日本の仕舞う文化は「隠しポケット」のような収納が最適

引っ越しや買い物、帰りの際はまずは持ち込みの一時保管?場所であり、行き場不明の物や、季節毎の頂き物やさらに雑誌や新聞段ボールなどは回収日まで置くは生活の“隠しポケット”なのです。わが国の伝統的な“仕舞う”の収納法もまさにハレとケの“隠しポケット”手法とも言えるのです。かつてわが国の家はもともと柱と屋根だけの壁のない家でした。それも床に坐る文化で、西欧のような椅子やソファー、チェストのような収納家具の文化ではなかったのです。やがて、そこそこ大きめの屋敷や商家の家の中には納戸や倉庫のような「塗り籠め(ぬりごめ)」ができるのです。ここだけは木舞壁(こまいかべ)で土を塗って固めた、「塗籠(ぬりごめ)」で、これが住まいの中で大切な物をしまう唯一の場所であり、また主人の寝床でもあったのです。

こうして寝室兼用の「納戸」(塗り籠め)」や耐火の「蔵」ができ、庶民の家にも部屋の中にも「押入れ」ができて、室内にタンスも持ち込まれ身近な収納家具となったのです。季節ごとや行事毎にこうした必要な物を丁寧に出し入れする所作を重んじた“仕舞う文化が”でき上がったのです。毎年季節の模様替えや行事ごとに必要な物を出して使い、そしてまたそれらを丁寧に仕舞うのです。

仕舞うは「仕」分けながら「舞う」文化で、なんと美しい言葉でしょう。蛇足ながら、私は「住まう」も住んで美しく「舞う」すなわち「住舞う」場だと解釈しているのです。だから住まいは“住舞”?だと信じているのです。

外から持ち込まない収納「玄関クローゼット」

近年になり、やっと洋箪笥などが壁のない家の中に持ち込まれ、襖や障子の前に置かれて不自然で滑稽な情景となっているのです。近代になって西欧化が急激に進み、あの畳の上に絨毯を敷いて椅子やテーブルを置き革靴を履いていた将軍や主君たちの姿がわざとらしく滑稽に映るのもまさにこの本質的な文化の違和感と言えるのです。

住まいが壁の家となりクロゼットなどの造りつけの「収納」の時代となるのです。しかし今日でもハレとケの文化は残って、合理的な収納とはまったく違った“表と裏の棲み分け”を本能的に持っていて、こうした異常なまでの「シュウノ-!」「収納!」となるのかも知れません。とは言え、屋敷の中に蔵や納戸もない3LDKの家の時代となって、いったい増え続けるものをどうするかなのですが、まずは、家の“玄関は物の関所”と考え、この玄関で物の侵入をすべて食い止めるのです。
とまあ大げさですが、まさしく「住まいの外と内の関所」をつくるのです。それこそ玄関でストップのあの広めの「玄関クローゼット」であり、買い物帰りの一時預かり、勝手口の「パントリー」やユーティリティと呼ばれる家事コーナーのスペースなのです。

シューズクロゼットと勝手クロゼット何でも棚 K様邸・N様邸 (設計:天野彰)
<シューズクロゼットと勝手クロゼット何でも棚 K様邸・N様邸 (設計:天野彰)>

まずはこの玄関と勝手の二つのクロゼットを前回お話しのようにあえて大きく造り、窓や換気をも施した、ドア一つで中のすべてが見通せる巨大な棚をつくることです。

これこそが、合理的な現代の“ハレとケ”の仕舞う文化であり、世界に類のない下足と上履きに履き替える“表と裏”家の“ウチとソト”の文化の継承でもあるのです。

5 断捨離?終活?老いの収納?

老いの生活にシルバーならぬ“ゴールデン収納”が大切?とはと、よく訊ねられるのですが、あのテレビ番組の高視聴率となる時間帯のゴールデン・アワーに例えたものです。

老いても健康に暮らせる家は「収納」のつくり方

誰の眼にも届きやすく手に取りやすい収納のことで「ゴールデン収納」で、季節の物や年に1、2度しか使わないひな人形などは一番遠い棚に置く。できるだけ扉も付けず常日頃から一目瞭然にすることです。

老いると言うこととは一体どう言うことでしょう?今や老いることは高齢者だけの問題ではなく、国家的大問題で老いも若きも一緒に考える時代なのです。ちょっとしたことでつまずいたり、よろけて転んでそれがために寝たきりとなったりそのまま認知症になるケースも多く、その時点で自身はおろか伴侶や子どもたちの生活までも左右し、さらに医療費負担も増して国家的問題と言うことです。たかが収納で?と言うことですが、建築的に見ると、脚立で物を取ろうとしてフラッとして落ちたり、床下など無理に体を曲げて腰を傷めたりと案外事故やケガが多いのです。機能的で快適な住まいの割にこうした事故が増えたり、反対に楽過ぎて動かなくなったりすることで活力を失うと言う現象も起きているのです。

収納は背を伸ばして手が届き、腰を無理に屈めない位置が最適

私の住まいづくりではバリアフリーに加えてリハビリ効果も必要と考え自然に活動できる間取りや、小上がりの緩い段差や中二階など、立体的なプランなども常に心掛けているのです。収納も同様、必要なところにイラストのように背を伸ばせば手が届く高さと腰を無理に屈めない低さの間に集中するのです。これが“ゴールデン収納”なのです。そこは極力扉を付けず、どこに物を置いたか、仕舞ったのかを常に認知しやすくするのです。

イラスト:「ゴールデン収納」見通しを良くし、姿勢を考える(画:天野彰)
<「ゴールデン収納」見通しを良くし、姿勢を考える(画:天野彰)>

これによって脚立から落ちたり、無理な姿勢で腰を痛めたりすることを防ぎつつ、多少のストレッチもすることができるのです。ただどなたも歳を取ればそれなりに物も増え、まるで物と同居?しているようになり、終いには、“家は物を置くところ”となって、なぜかいつの間にか「収納」が主役の家となってしまうのです。

そこで人が主役で生きて行くために一体何が必要かを改めて考え、これからの長寿高齢生活で最低必要な物だけを家に置くのです。すると自然に物を極力買わない。物を持ち込まないようになるのです。この最低限の、しかしすべてがゴールデン収納の家は老いの生活だけではなく若いころからする必要があるのかも知れません。「断捨離」や「終活」など物に左右され収納で神経をすり減らすなど、人生そのものがもったいないことと考えるのです!

建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
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