住宅関連記事・ノウハウ
2025年4月1日(火)
私の住まい「家づくりの出会い」
多くの家を設計してきて、住まいが自然に人の生活、ひいては性格さらには夫婦の関係にまで影響を与えていると思うのです。結果としてそれが「長寿の家」の是非ともなるのではないかと言えるのです。
きっかけは子育てが終わって子どもが出て行った後にある?
多くの家を設計してきて、住まいづくりは自然に人の生活、ひいては性格さらには人生にまで影響を与えて居ると思うことです。結果としてそれがすべての建物のあるべき姿と思えるのです。
しかし現実の建築は新興都市のように奇抜な外観か、反対に古都の伝統文化意識したカタチを模し、さらに被災地意識を呼応したデザインなどなど、しかもその裏で効率、採算重視の建物づくりばかりとなっていることに失望すら覚えるのです。それこそが知らずしらずの内に当たり前となって行く…、今、あちこちに林立するタワー・マンションや分譲ミニ開発が、住まいと街を象徴しているのです。果たして人々は真に望んでいることでしょうか?
私の家づくりの出会いは「家族」と「土地」の出会い
生身の住まいの設計の栄誉を得たのは在学2年の後半、筆者が若干20歳の時でした。東京大学の生田勉教授研究室での先輩、岸崎隆生氏から友人の姉の家の設計で大分県の臼杵でした。
後にこのことが筆者の建築家としての情念を掻き立て、人生をかくも充実したものとしてくれることになるとは夢にも思わなかったのです。
当初は先輩の手伝いとして単にディテ-ルだけを描くつもりでしたが.途中からやはり木造が良いということとなり、それまで多少の経験があった私に計画から参画させていただくチャンスを得たのです。
東京から20数時間急行列車に乗り、単線の日豊本線に揺られて降り立ったところは.山と海に囲まれた入り江の小さな町でした。民家や造り酒屋の軒先が鈍い鉛色のまるで品の良い時代劇のシーンにタイムスリップしたようでした。
そこにある色といえばと漆喰そして灰石(はいいし)と呼ばれる凝灰岩の石積み・・そのあまりに重厚でしかもモダンとも言える洗練された伝統の町並みにいったい現代建築をどう融合させたらいいのか?家づくりは初めての体験であるばかりか、さらに課せられた苛酷とも言える重責に.浅薄で小さな私は身震いがし気も狂わんばかりでした。幸い敷地は町をやや離れた小高い丘上にあって独自のデザインは可能ではあったのですが、やはりその地の素材選びやさらに町の人々の意識から逸脱することは到底できそうにありません。
生活文化と伝統文化との葛藤の連続
はたして近代建築の手法はこの伝統的な重圧に耐えられるのであろうか…。水平線上にデザインをイメージするフランク・ロイド・ライトやリチャード・ノイトラ、北欧のアルバー・アールトなどなど、当時の若い学生たちのデザインバイブルの過信も手伝い、ひたすら海外へ目を向けモダンを求める向こう見ずな若い体質はすでにせっかちに水平ラインでスケッチを始めていたのです。
今思えばすいぶん無謀なことでした。
しかし屈託のない建て主の家族の一人一人と親しくなるにつれ・・・私のスケッチなど吹き飛んで、その土地の風景と敷地に沿って一人一人が動き出し、その動きに合わせ間取りと屋根が並ぶようにプランと立面が自然に生まれて来るのでした。
なんと地場の“はいいし”の積み石さえも家の中に入り込んで来るなど不思議な造形の体験をすることとなり。やがて杉の薫りが室内いっぱいに広がり方言でいっぱいになる。と、建物がまさに地に吸いつくように一体となり息づくのを覚えたのです。
家づくりの感動はあらゆる建物づくりに醸成される
この感動は半世紀以上たった今でも新鮮で、その後あらゆる場面で支えられ自身も醸成されたようにも思えるのです。建築士は人との出会いとその地の対話でそのカタチを社会に具現化することが職能だと感じます。
奇を衒うのではなく新たなカタチを求めるのでもなく建て主自体が“酵母”のような存在となって建物を醸成するのです・・・。
この家づくりの一つ一つがすべて大きな感動の連続で、いろいろなことを発見し、さらに醸成し今の筆者の家づくりや建物づくりの大きな存在となっているのです。この家づくりの体験の感動こそ大切にしたいものだと思うのです。
次回は「“壁の家”と“傘の家”の葛藤」をお話しします。
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