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住宅関連記事・ノウハウ

建築家 天野 彰 生きるためのリフォーム 住まいの思想とは?

【1】住まいのカタチ?住まい方?その本質!

家の「顔」はわが家の顔です
家の「顔」はわが家の顔です

司馬遼太郎は、日本人は「思想を持たない思想」と言う。確かに政治にしろ、日々の生活、はたまた宗教に至るまでなるほど一途に偏る人を見かけることが少ない。そんな重大なことまでを、多くの人は「付き合いだから」とか、頼まれたから、義理だからと、一見、無思想にも思える言い訳のようなのですが、どっこいそれは信念がないのではないと私は思うのです。それこそ無思想の思想で、周囲とのバランスを考えての思惑が優先し、わが心の許す限りの妥協点を探り協調し、自身は静かにわが理想を求めているのです。

その最たることが家づくりではないかと思うのです。すべてがバランスから始まりちょっと個性を出す。しかしそのためか変わり身も早く、思考が周辺との変わらない同じような流行りの家となる。そこに量産住宅、企画型?いや規格型住宅のプレハブ住宅最盛期となったと言う。これは生活、果ては人生の画一化とも言えるのです。

これは大変なことです。無思想の思想の住まいの時代となったのでしょうか?幸いなことに、そんな思想と言うかDNAのなせる業か日本人の誰にも「和」があってカタチばかりではなく、本当は思考を含めた思想以上の「心」があると思えるのです。多くの家づくりのお手伝いして培ったものが、デザインによるカタチでもなくインテリアでもなく、行きつくところが自然尊重と、「とき」と「ば」を大切にし、「ハレ」と「ケ」などと言う文化まで生み出したのです。そしてわが国の家には好み以上の「生き方」と「振舞い」の感性もあるのです。それこそ、紛れもない生きる思想とも言えるのです。

注意すべき点は、住まいの変遷が目まぐるしく、現代建築の専門家が、無思想の建て主に提案した案が即座に迎合されやすく裸の王様にもなりやすいことです。私たち住まいの専門家は、建て主のあらゆる感性を引き出してその感性から本質的な生活思想や思考を引き出し具現化する姿勢が重要だと思うのです。

イラスト:洞穴住居から変わらぬ家族のカタチ(画:天野 彰)
イラスト:洞穴住居から変わらぬ家族のカタチ(画:天野 彰)

和の家のカタチ(下呂N邸3枚:設計撮影/天野彰)
和の家のカタチ(下呂N邸3枚:設計撮影/天野彰)

私の場合はもっとリアルで、便利な都市に住む以上、田舎に比べて狭い・高い・遠いを前提として、経済そして職業はその枠と捉え、おおむねのプランをつくるのです。さらに 夫婦別々に互いが思う本音を引き出し、その生い立ちや子を思う心と、親を思う子の心を重視するのです。夫婦一緒ではどちらか一方が迎合して見えなかった本心が引き出され、そこからそれぞれの生活感がヒントとなり、最大公約数的なプランを生み出すのです。

結果それがその人、その夫婦、その家族のオリジナルなカタチとなり、それがその家のカタチとなるのです。個性的なその家の顔となるのです。周りを気遣って巨視的に観て、そこからわが家の細部の色カタチにまで拘るのです。私たち有史以来の家のカタチなのかも知れません。

【2】風と水そして光 風水に見る自然素材の健康思想!

柱と屋根だけの傘の家(画:天野彰)
柱と屋根だけの傘の家(画:天野彰)

わが国の住まいの「和」の思想とは、数々の本質的な自然素材による自然志向の家であることと、「風」すなわち通風と通気の、湿気「水」対策の健康思想の家であることが伺えます。その健康とは多湿なわが国での、住む人の健康はもとより住まいの耐久性の「風」と「水」そして「光」の設計思想と技法、素材それらはこのコラムでも幾度となく例えられる、「すまいは夏を旨とすべし・・・」の、一に風、二に風通しのシンプルであることのとおり、1000年も続き、今をなお日本の住まいの思考にあり、いかに近代化が進み時代が変わろうとも底辺の「裸足文化」は日本の住まいの体質とも言える思想となっているのです。

しかしながら明治以降の急激な近代化と西欧思考、戦後の欧米志向や合理的な工業化により、伝統工法や伝統技法の『匠』の名のもとに形象的かつ特別趣向のような存在となっているのです。

近代化とは、造り手の思考に寄って、合理的かつ工場生産化へのプレファブ化、prefabricated houseの、あのプレハブ住宅の到来となり企画型規格型のパネル板による組み立て住宅となり、2×4インチ角の枠材とベニヤ板だけで造る、ツーバイフォー住宅の洋風の箱の家となったのです。こうして柱と梁と屋根だけの「傘の家」は、サッシやベニヤ板に包まれ、内装もすべて工業生産のフローリングやボード貼りとなり、スレート版の型押しサイディングボードなどの外壁となり、あまつさえ世の中は高気密高断熱の省エネ化が優先され、肝心の通気通風が二の次となっているのです。暖かい家は歓迎され、1000年の夏の家は形式的なものとなり、人々は化学物資と機械冷房と強制換気に頼る生活となっているのです。

「箱の家」から「傘の家」(画:天野彰)
「箱の家」から「傘の家」(画:天野彰)

渋谷で健康住宅をアピールした通気の良い卵の家『家っぐ』(撮影:天野彰)
渋谷で健康住宅をアピールした通気の良い卵の家『家っぐ』(撮影:天野彰)

『家っぐ』プラン
『家っぐ』プラン

今私たちは高齢化し、冷暖房に違和感を覚え不調をきたし、住まいは蒸れて傷みやすくなって、今改めて芯から無垢の自然素材と自然通気と風通しの良い「夏の家」『傘の家』を求めているのです。名ばかりの匠の技の家づくりから、現代の技術で高機能を保持したまま、いかに健康的な自然素材の家をつくるかが大きな課題となっているのです。

添付写真は通気塗材「セラブレス(サンスター技研)」をアピールした、自然通気する卵の家、すなわち炭酸カルシューム殻の「エッグの家」の健康住宅をテーマに訴えたショールーム『家っぐ』(鈴木エドワード氏他との共同展示1998年~)詳しくはまたいずれ。

【3】生きた木と木を柔軟に継ぎとめる仕口の技!

木造こそ木組みの仕口の技(画:天野彰)
木造こそ木組みの仕口の技(画:天野彰)

木造はいい。薫りがいい。ではなぜ「木造の家」が本当にいいのでしょうか?木造と言う名ばかりの哀愁で、「木の家」は珍重され特殊視され、かえってその普及が疎外されているのだと思うのです。あまつさえ輸入された廉価な熱帯の木材や合板による住宅が「木の家」として普及し、大きな誤解のなかで本来の匠の技の家から、名ばかりの「木の家」が今、「伝統木造文化」のわが国で台頭しているのです。では本来の「木造の家」とはいったい何でしょう。木の家ではなく木造なのです。しかもその木の造りこそ匠の技による木と木の組み合わせによる「木組み」なのです。その「木組み」こそ「仕口」と呼ばれる匠の技のことです。これにより元来の木の特性は生かされ木組みの木造となるのです。これを私はあえて「伝統木組み木造」と呼んでいます。

その仕口こそ、ほぞと穴による木と木の継手(つぎて=イラスト)よりなる木組みなのです。それは現代では残念なことに、匠の大工が少なくなり、強いては、仕口は継手と解釈され、金属のアームジョイントのカプラーに柱や貼りに差し込んだ、木組み?木造となっているのです。

白川郷合掌造りの縄仕口 (撮影:天野彰)
白川郷合掌造りの縄仕口 (撮影:天野彰)

祇園祭の縄仕口の鉾 ぎしぎし揺れて動く(撮影:天野彰)
祇園祭の縄仕口の鉾 ぎしぎし揺れて動く(撮影:天野彰)

本来の木組みの木造たる所以は、木は切られてもなお生きていることで徐々に乾燥して痩せたり、湿気て増えたりし、さらに時とともに反ったり、捩じれたりもするのです。しかもその樹種によってはそれらのリズムさえ違うのです。ときには猛烈な台風や地震も起こり、その仕口に大きな負荷も掛りそれらも柔軟に受け止めるのです。これこそ生きている木の住まいの証であり、その木目を読む匠の技こそ“目利き”と言われる大工棟梁の所以なのです。この妙こそが古来「伝統木組み木造」なのです。

その動く木組みの特徴的な例えとして仕口を造っている間が無い場合や、それ以上に動く力がかかる時は縄を束ねて互いの材を縛るのです。その特徴的なのが白川郷の合掌造りの縄組架構で複雑な斜め材を結び、さらに大雪の応力にも柔軟に撓うよう工夫しているのです。(写真) それこそ街を動き回るあの祇園祭の山車や鉾はすべてこの縄の技で結んでいるのです。これは各部材をばらして次年まで保管するためにも良いのです。

【4】対自然ではなく従自然の「柔」の街づくり!

中国永定の客家円楼のような、円形防災『街の核』(画:天野 彰)
中国永定の客家円楼のような、円形防災『街の核』(画:天野 彰)

3,11から5年のスパンで、各局の報道番組などから現実の進捗の姿が露わになり、その善し悪しも見えてきました。特にメルトダウンを同時に3基も引き起こした福島原発周辺は惨憺たるもので、抱えきれないほどの汚染土や汚染水の処理はもとより、大量の高濃度のデブリの取り出し廃棄までの気の遠くなるような工程?に、地元に帰還解除が出ても、被災者の気持ちを思うと息が詰まる思いがするのです。

このことはその他の沿岸被災各地も同じことが言えるのです。手間暇のかかる突如の防潮堤建設や高台造成、建築禁止区域をつくり半ば強制的な街ごとの高台移転などに伴い、医・職・充(子育てと憩い)の街のインフラ構築や、居住のソフト面が全く追いつかず、掛け声だけで国家の努力も姿勢も見えず。仮設住宅や縁者頼りにバラバラに生きて来た人々への暖かいコミュニティーづくりはおろか、肝心の職住のバランスなどの 国がすべき“街の中枢”いわば“街の核”つくりが未完遂であることです。

震災直後の5月ごろ、私たち建築家は救済と同時に、今の街の面影をそのまま(土地の特性と権利)を担保した、まったく新たなアイデアの復興と同時に災害対策の必要性があることを2,3の対処策や核づくり例をスケッチとともにNHKTVにて紹介提案したのです。(イラスト:その他詳しくはまたいずれの機会に)そのことこそ、津波や地震に打ち勝つ対自然ではなく、避けて移転することでもなく、巨大な自然に面と向かって柔軟に受け入れ、受け流す「柔」の精神だったのです。

イラスト:津波が襲ったら逃げ込める強靭な “スカイ・シティ”(画:Atelier4A)
イラスト:津波が襲ったら逃げ込める強靭な “スカイ・シティ”(画:Atelier4A)

足元で波を受け流す住ユニット『フレームコロニー』(画撮影:天野 彰)
足元で波を受け流す住ユニット『フレームコロニー』(画撮影:天野 彰)

今各地で巨大な防潮堤や、膨大な手間暇がかかるかさ上げ造成工事が進む中、私どもの提案のいくつかがすでに完遂できたであろうと思うと、改めて口惜しくも感じさせられたのです。今こうしている間にも沿岸部の造成中に新たな津波が発生し、大きな水害が起こりかねないのです。わが国、1000年のこうした災害対処法こそは、断水でもなく防潮でもなく、それは柔軟な治山治水であり、防災以前に減災の意識で、耐震よりも従震、自然に対して「柔(やわら)」の精神であったことが伺えるのです。それはいざとなった時の避難を考えたその場しのぎの仮設ではなく、どんなに小さくとも街の拠点、本気で本物の“街の核”をつくることが急務だったのです。その核に街や国は自然に形成されたのです。

それにつけてもこの豊かな時代!沿岸被災地の生活は本質的にはがほとんどが回復していないのです。それは一体なぜでしょう。1945年の世界大戦後の敗戦直後の食べるものもなく、放射能と瓦礫のぐちゃぐちゃの焼け跡の中からのあの復興のスピード、(世界に先駆けて東海道新幹線が走り、東京タワーが建ち、カラーテレビ放送も始まり、原爆の広島、長崎が今の街の原型に復興し、1964年のオリンピックを無事開催した当時)にもはるかに劣るのです!今こそ政治も経済も、大震災から9年後の、一兆円を超すとも言われる2020年のオリンピック開催に向け、聖火台さえも忘れる甘々の有識者たちも、私たち国民も、口先だけの激励や励ましの歌ではなく、心から大いに今を反省するべき時ではないのでしょうか?

ハウス仲人が家づくりの不安を解決!

建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
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