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住宅関連記事・ノウハウ

建築家 天野 彰 気楽に住める家 住まいの隙間デッドスペースを生かす

【1】住む人自身が「気楽に住める家」について

  • “手抜き”収納
  • 気楽に住むための設備や収納を考えると案外簡単に答えが見えて来るものです。すべて目立たないように壁の中に埋めれたら一番ですが、気楽に放り込めるポイ捨てできる“ポイ捨て収納”も大事です。

昔住んだ2LDKのマンションの玄関にあった中途半端な押し入れを下は引き出し式の下駄箱兼、小さな「なんでもクローゼット」にしました。おかげで狭い室内に物を持ち込まず、“ポイ捨て収納”もでき、家の中がすっきりしたものです。

写真:2LDKの半畳押入れをクローゼットに (天野彰)
写真:2LDKの半畳押入れをクローゼットに (天野彰)

これを機に、階段下のわずかなスペースを使って「なんでもクローゼット」をつくり、戸の内側にもスリッパ掛けをつけるなどの工夫をしています。家の中に物を持ち込まない考え方が、今の事務所の設計コンセプトでもあるのです。

  • 自然に隠す工夫、書斎も家事室も壁の中に
  • 見せる収納は文字通りダイニングやリビングなどのあの食器などの飾り棚、本やメディアなどのラックはあえて見えるようにし、寝室や洗面、トイレなどの衣類やストックなどは反対に隠す収納へ。サニタリーや薬品など子どもたちの目が届かない逆開き戸の裏の隠しポケットにするととても使いやすくなります。

写真:洗面所の逆開き扉(鏡に映った部分)(天野彰)
写真:洗面所の逆開き扉(鏡に映った部分)(天野彰)

イラスト:サニタリーポケット収納(天野彰)
イラスト:サニタリーポケット収納(天野彰)

家族にも障られたくない書斎のテーブルや危ないものも多い家事コーナーも壁の中に押し込むと、2LDKでも書斎も家事室 を設けられるようになります。マンションなどの内部の間仕切り壁はコンクリートの壁式構造でない限り厚さ10センチほどの壁の中に本棚も沢山作ることができます。一部の扉を開ければ机が飛び出し、見事「書斎」が出現し、閉じれば元の壁となり、部屋はすっきり鍵も掛かります。同じように、厚さ10センチの壁からは少々はみだすかもしれませんが、奥様の家事コーナーも飛び出てきます。扉を閉じれば危険なハサミや針なども隠せ、作業途中のものも触られることもありません。これら厚さ10センチのオヤジデスクとママデスクは悦に入ることができるのです。

イラスト:厚さ10センチの親父デスク(天野彰)
イラスト:厚さ10センチの親父デスク(天野彰)

イラスト:厚さ10センチの家事室(天野彰)
イラスト:厚さ10センチの家事室(天野彰)

  • まだまだある住まいの隙間と、危険も?!
  • 狭い住まいもまだまだ隙間があり、工夫次第ですっきり物が納まり、広々とした住まいとなります。

【2】住まいの危険を探り安心安全に!

長く続くコロナ禍で、ウイズコロナとは言え周囲で陽性者がこうも多く増えるとどうしても自宅待機になりかねません。しかもこのコラムでなんどもお話した住まいの中の危険もあります。気楽に住むためにはまずは家の内外が安全でなければなりません。しかし残念ながら、その危険は住まいのあちこちの意外なところに潜んでいるのです。住まいの盲点を探るのです。

禍で運動不足となり、さらに異常気象や度重なる災害や紛争や事件など、精神的にも憂うつとなり注意も散漫となります。

多くの住まいや建物を設計し、都市や社会の関係性を身に感じて勤めて来た筆者自身も高齢化し、「安全な家」の喪失をひしひしと感じているのです。増え続ける高齢者数に対しそれを支える出生率も下がり、年金不安、危機を覚え、悲壮感さえ持つ人も多いのです。

  • ・食べ物をのどに詰まらせる
  • ・階段から転落する
  • ・ベランダから転落する
  • ・段差につまずき滑り転倒する
  • ・浴槽内で溺死する。火傷をする

このように家のつくりと共にその“暮らし方”も原因となっていることも多いのですが、やはり家は段差や階段で、手すりのないものやその手すりが傷んでいたり、壊れやすくなっていたりで、建売り住宅などは無理なつくりで急な階段も多く転落の原因となっているのです。こうした中で老いと共に朽ち行くわが家をどう安全にしたり、あるいはリフォームや建替えたりなど、安全策を考えなければならないのです。

イラスト:小上がり和室で夫のふとんと妻のベッドで「夫/婦寝室」(図:天野彰)
イラスト:小上がり和室で夫のふとんと妻のベッドで「夫/婦寝室」(図:天野彰)

高齢となりどう暮らして、安全策を探して行かなければならないのです。こんな老いのわが生活を想定して“今”の住まいの“設計やつくりに投資をする姿勢”が、家自身を長持ちさせることでもあるのです。

イラスト:畳の段差で介護や腰掛もシーツの交換も容易(図:天野彰)
イラスト:畳の段差で介護や腰掛もシーツの交換も容易(図:天野彰)

  • いつまでも若いと思っていると・・・段差につまずく
  • 住まいの設計をお手伝いするとき一番困ることは、自分はまだ若い、いつまでも元気だと思っていることです。家づくりの思想にまで大きな間違いを起こしているのです。実際に若いとはいっても、40代、50代の人が家を建てるとなると、たいていの場合、家はまさに「最後の家」となるはずです。しかも最後まで住むことを考えるなら、自分が70、80代になったときのことを忘れてはならないのですが、しかし残念ながら“今”のことしか頭に浮かばないのです。

その一つが段差です。家の中に段差がたくさんできてしまう。さらにカーペットなどの小さな段差にも躓(つまず)きやすくなり、転倒し骨折などする事故も多いのです。しかもわずか3ミリか5ミリそこそこの畳と廊下との段差に躓いて、足の親指の爪をはがしてしまうなどという痛いケガも起こるのです。年をとるにつれ奥行きや高さの確認もおとろえ、動作も鈍くなります。自分で敷いた布団や座布団につまずいて転倒してしまうことさえあるのです。これは年寄りに限らず厚さ2センチもある分厚い絨毯などを敷いて、これに躓いて思わぬ事故を起こすこともあるのです。

  • 子育てと老いに玄関マットはいらない?
  • 子育て中の家庭では玄関マットや風呂のマットなども注意が必要です。マットの上に乗ったらそのまま玄関に滑り落ちるなどということもあるのです。これがお年寄りだったら大変な事故となります。玄関マットなどない方がよいのです。どうしても敷きたい場合には滑らないように下をゴムマットや両面テープなどでよく止め、できるだけ薄いものにした方がよさそうです。

写真:一段下がった家族コーナー大分K邸(設計:天野彰)
写真:一段下がった家族コーナー大分K邸(設計:天野彰)

逆に一段下がったリビングや、小上がりの和室などハッキリ大きな段差があると段差を見誤ることはなく、足腰を鍛え、腰かけることもできて家の空間や生活に変化もたらします。ごくわずかの中途半端な段差が問題となるのです。

写真:3段上がった和室で空間に変化・Kから直接配膳(写真:アトリエ4A)
写真:3段上がった和室で空間に変化・Kから直接配膳(写真:アトリエ4A)

こうして改めて住まいを見つめ直してみると思わぬところにいろいろな危険や段差があるのです。自身の歳や身体も急に大きな段差があって老いるのではなく、次第に段差ができて老いるのです。

【3】「段差」「階段」の危険を探る

厚生労働省の家庭内事故調査(詳細のデータはなぜか古いものしかないが・・・)を見る限り、その後も交通事故死の倍を上回る事故例が多く、中でも階段や段差での転落や転倒の事故が多いと言う。

  • 段差の魔物
  • 老いの生活や子育て家庭に事故が多く、同じ板張りでもリビングとダイニングの間やダイニングとキッチンの間で、わずかに敷居が上がっている場合がある例や、ドアや引き戸のために敷居が僅かに上がった段差で思わぬ事故が起きやすく注意が必要です。最近は敷居やドアの段差は埋め込みレールやドア止めが無くなりこうした事故は少なくなったものの、和室との段差などは気が緩み大きな転倒になるとも言われています。

写真:半階ずつ上がるスキップフロアの脳外科医師のY邸(設計:アトリエ4A)
写真:半階ずつ上がるスキップフロアの脳外科医師のY邸(設計:アトリエ4A)

モダンでまっ平らな床の間がいい例で、昔の床の間は畳よりも10cm以上高かったものが、広々と見せるためか、最近のリフォーム工事では床のほとんどはゾロの平らにし、床の間の床板(地板)をすっきり畳と同じ高さにしている例も多いのです。

実は畳は足で踏んだときに僅かな弾力があって沈み、床の間の地反やフローリングは沈まず、ごく僅かな段差ができてつまづき、爪を剥ぐなどの“痛い!”事故も起こるのです。これはカーペット敷き込みも同じで、木製の敷居やフローリングと厚みを揃えると高さが同じになる反面、カーペットが沈んでそこにつまづく事故になってしまいます。あらかじめ施工業者に頼んで、床下の根太(ねだ) を下げ、切り込んで敷居を埋め込むことで解決するようにしましょう。

  • 若くて元気な人に多い「水切りの段差」
  • 浴室に入るとき、防水や水止めの関係上どうしても5~10cmくらいの段差ができてしまいます。これが「水切りの段差」です。そして、脱衣室はフローリング材かビニール床で、浴室の床はタイルかプラスチックの床やタイルでできており、タイルは濡れていると滑りやすく、そこに不用意にかかとから足を下ろすと滑りやく危険です。

これは若くて元気な人に多く、お風呂に入るときよりも、掃除するときや、お湯が溢れたときなどに、慌てて飛び込んで転倒して後頭部を打つなどの大事故となります。敷居も鋭利なアルミサッシになっているケースも、ここに頭や身体をぶつけたら大変です。

  • 階段の事故はなぜ減らない?
  • 事故が特に多いのが階段です。2階に上がるときは上りやすいと思っていても、降りるときは寝起きや高齢になるにつれて恐怖感が増してリズムも狂うなどするのです。上るときよりも降りるときの事故が多くリズミカルに降りているつもりでも足が遅れてしまいスリッパが引っ掛かったり脱げたりすることから起こるようです。そこでおすすめなのが手すりです。なぜか上るときのことしか考えないことが多く、片方しか手摺りがないことが多いですが、降りるときに支える頼りが無く、これでは最善とは言えません。家族には右利きの人や左利きの人もいます。手すりは両側にあれば理想ですが、狭くなるからとか、格好が悪いなどと、若いときには感じなかったことが老後には事故につながります。

若い人でも足のケガをしたときや酔ったとき、何日か寝込んだ後など階段がいかに恐ろしいものか分かるのです。老いて両手で手すりを掴みながらよじ登ることも出来、「足を骨折しても上がれた!」と言う印象的な建て主もいました。

写真:踊り場にある子ども寝室が見える一体感のあるKo邸(設計:天野彰)
写真:踊り場にある子ども寝室が見える一体感のあるKo邸(設計:天野彰)

また、デザインで階段室を明るく見かけを良くし手摺り子を無くし、ガラス張りにするなど、転倒した場合には危険な凶器になりかねません。安全重視の楽しい広い「Uターン階段」にしたり「踊り場」を設け、そこから室内や景色が見える空間の変化を愉しんだり、ゆるく安全な階段は住まいの中で身にも心にも最も良い“リハビリ空間”になりえるとも言う医師もいらっしゃいます。階段は住まいの中で縦に空間が広がり、視界も大きく変わる不思議な劇的な空間なのです。

写真:踊り場に腰掛けのある孫との愉しい踊り場空間と滑り止め(イラスト:天野彰)
写真:踊り場に腰掛けのある孫との愉しい踊り場空間と滑り止め(イラスト:天野彰)

お風呂と同じように扱いによっては危険にもなるので、かかとを下ろしたとき滑りやすい素材を避け、滑り止めも足が引っ掛からない掘り込みにするなどの工夫をすれば住まいの中の大きな新たな縦の“エポット空間”となるでしょう。

写真3:両側手すりの折り返しUターン階段(設計:天野彰)
<写真3:両側手すりの折り返しUターン階段(設計:天野彰)>

【4】よい歳を 自身を考え柔らかい家

長年にわたり住まいづくりのお手伝いをさせて頂いていますと、その家の生活や家族の好みはもとより、それ以上に人生に係わることが多く、自身の力の無さを思い知らされることがあります。当然のことながらどなたも歳をとり、時に病に伏せ、家族が変わり、周りの環境も変わることもあります。このように多くの家族方々の生活や人生に接していますと、幾多の職業や人柄にもお逢いし、改めて住まいが定型や既製品の“箱”であっては、その家族の好みや人生とは大きくかけ離れて空しくも感じられます。

  • “柔らかい家”の発想
  • こうして住まいと家族の好みやその変化を考えると、むしろ“箱”はおろか仕切りの壁も無く、決まりの設備もない家こそが家族を柔軟に包み、そして“優しい素材が一人一人を包み込むそんな“柔らかい家”が理想と思えて仕方ないのです。

写真:優しい木に包まれる柔らかい家A邸(設計:天野彰)
写真:優しい木に包まれる柔らかい家A邸(設計:天野彰)

創始の洞穴の家や、屋根と柱だけの家「方丈庵」が気楽に気ままに住める家ではないか?このことは家のリフォームのお手伝いするときに特に思うことです。

トルコカッパドキアの洞穴の家(写真:天野彰)
トルコカッパドキアの洞穴の家(写真:天野彰)

角のない、また壁を感じさせない優しい家のつくりやその素材を考え、実験ハウスや実際の建材づくりにも挑戦して来たのです。「卵の家」“家ッグ”(家とエッグ)の優しく雛を包み育む強靭でかつ通気・保温さらには調湿の多孔質素材の家づくりの提案でした。

「卵の家」家ッグ(手前)展示(写真:サンスター技研と共同提案アトリエ4A)
「卵の家」家ッグ(手前)展示(写真:サンスター技研と共同提案アトリエ4A)

「卵の家」家ッグプラン(イラスト:サンスター技研と共同提案アトリエ4A)
「卵の家」家ッグプラン(イラスト:サンスター技研と共同提案アトリエ4A)

  • バリアフリーはなんだったのか?
  • 老いたらバリアフリーの家段差や階段が危険で大変長年に渡ってそうしたバリアフリーの家づくりのお手伝いをして来て思うことは、意外にも誰もが本気で老後の自分の姿を考え、そうしたリフォームや家づくりをしていないことです。確かに夢の家づくりで、これから自分の足腰が不自由になったらどうする?などと考える人はいないのです。いざ家の設計となるとキッチンだ、インテリアだと、そんな老いの話題すらも出ないのも当然なのです。しかし努めて「屋根裏などしょっちゅう上がり降り出来ませんよ」などと言うと、初めて「じゃ、その時が来たらエレベーターでも付けますか?」などとまるで他人ごとのよう。実際にそうなってエレベーターなど付ける人などいないのです。あげく入院か介護施設に追いやられてしまうことになりかねないのです。「本当は、最期まで家に居たかった・・・」と。

  • 自分に合った家とは何?
  • たいまいを叩いて建てた家やリフォームがいったい何の為だったのか?と思うばかりの家となってしまう。この年末年始の機会こそ改めてじっくり考えて新たな年のわが家づくりを考えて見たいものです。都市のどんなに狭い土地で密集した場所であっても、必ず自身と家族の生活と人生をぴったりと包み込んでくれる家をつくることができるはずです。

建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
 一級建築士事務所アトリエ4A ホームページ

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