住宅関連記事・ノウハウ
2025年1月24日(金)
災害は忘れたころに やわら”の精神で防災
減災:大規模防災から個人の備えへシフトする時代
長年家づくりに関わって、特に耐震耐火など防災に心がけて来たものの、便利で人が集まりやすいさらに密集する都市の直下型地震や、湾岸に面した都市への津波に対しては途方に暮れるのみです。そんな中では快適で住みやすい家もあえなく破壊され、延焼してしまっては命を失うことにもなりかねません。例え倒壊は免れてもエレベーターが止まり、電気や水などもインフラ、果ては都市間機能が失われることまで想定しなければいけません。
大規模防災志向から個々の減災志向へ
東日本大震災の直後、筆者は巨大津波にも耐えうるピンスポットの砦づくりとは、いざとなったら車両や漁船、家畜などと共に逃げ込める強靭な要塞コロニーづくりを提唱してきました。
あの中国は永定の客家(はっか)の土楼(とうろう)のような集合住宅づくりや、20mほどの津波ならやり過ごせる円形の擁壁や堅固な橋梁の上の人口台地の街などを提案したのです。その年の5月にはNHKにて全国に紹介もさしていただいているのです。
しかし時の政権は被災地の沿岸には膨大な費用で巨大な防潮堤が延々と建設し、盛土して高台を造るなどが優先されていました。古来、海と共に生きてきた人々と街を移転しようとしたのです。今、その根本思想が問い直され自然破壊と多額の費用が掛かる“物力的防災”から災害から命を守る緊急避難所などを多く造り、普段は安全で快適、しかも積極的に“活きる”ための家づくりや街づくりで、柔軟で廉価な“減災志向”へとなっているのです。
減災は“やわら”の精神
筆者はかねてより地震に柔軟な巨大な五重塔や東山山系の音羽山の急斜面に立つ清水寺の懸崖造りの舞台から「柔軟構造」や常に観える「耐久構造」から、アローワンスとメンテナンスの重要性を学んだのです。こうして春夏秋冬 の変化する自然の美と融合しながら多くの建造物を配した壮大な景観美をつくりだすわが国の建築美に感動したものです。そして今もなお、その美と構造を保持している、サステナブル・ストラクチャー(持続可能な構造)なのです。
清水寺は国宝でありながら雨ざらしで、しかも多くの参拝者が靴履きで上がる舞台はメンテナンス技術でもあるのです。それが今もなお行われているのです。
侵食された材の部分を削り埋め込み、分厚い板と板をつなぐ本実(ほんざね)もすべて凹にして、そこに互いをつなぐ角材を入れる雇い実(やといざね)で、主要構造の柱と梁の楔(くさび)を打って“締め直し”を行うのです。筆者はこの無数の楔による締め付けこそが、大きな木組みのひずみや地震時の揺れに対して建物の破壊を防いでいる、アローワンスの“吸震効果”と名づけており、これこそが“やわらの精神”の柔構造の発想なのです。
こうした“やわらの精神”で身を守る、耐震や防災を考えるとまた新たな生きる手法、生き残るスキルを見いだせるはずと思うのです。

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