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建築家 天野 彰 狭楽しさの手法 暑苦しさから逃れ“暑楽”しさの涼味?

1 都市の空しい「暑さ」から昔ながらの日本家屋で叶う「暑楽しい」

暑い!全国どこに行っても暑い!しかし日本の夏はこんなに暑かったのでしょうか?じめじめとして蒸し暑い梅雨さえ終われば息をついた様に陽ざしは暑いが朝夕は過ごしやすい夏が巡って来たものです。特に暑い日は夕方からもくもくと入道雲が湧き出て来てざーと夕立が来て涼しくなったものです。それが日本の夏で、夏の風物詩でもあったのです。しかし今はどうも夕方はさらに蒸し暑く寝苦しい熱帯夜などが常態化しているのです。

確かに温暖化なのか?都市化によってさらに暑くなっているようなのですが、それでも日本の“住まい文化の知恵”を講ずればなんとか過ごせるものでしょうか?

狭苦しさの「苦」を取りされば狭くとも楽しい「狭楽しい住まい」になるように、暑苦しくても苦さえ取れば暑くとも「暑楽しく」なるはずですが「暑楽しい」とは聴きなれませんが、なるほど暑さがゆえに“涼味”があるように、なるほどわが国千年の歴史の中にこの涼味は存在し文化ともなっているのです。考えて見れば「狭楽しい」も西洋志向の世ではなかなか認知してもらえなかったものです。それもそのはず狭いより広い方がいいし、暑いよりも涼しい方がいいに決まっています。しかしあらためて西洋化され都市化された今、密集した都市はますます狭くなり高層化され、反対に広い住宅地は過疎化し空き家となって広さに手を焼いているのです。改めて利休の茶室を愛で、方丈庵に憧れ、長屋の熊さん八つぁんの暮らしが懐かしく思われる時代となているのです。

暑さ寒さも昔から寒いのは羽織り重ねれば何とか過ごせるが、暑さからは逃れることができないと、「住まいは夏を旨とし」なのです。しかし都市の現実はコンクリートとアスファルトで“空しく”暑さを感じ、庇のないガラスのビルの照り返しの上に、機械冷房の室外機の排熱と騒音、さらに渋滞による車の排気熱…。情緒もなければ、なるほど暑さを増幅させる“空しい暑さ”となっているのです。

京都町屋は暑さの中で感じる「涼しさ」を楽しめる家

ここで改めて「住まいは夏を旨とすべし」の都市住宅の原点を京都の町家で探ってみましょう。さすが千年の歴史ある街は東西南北の街路から工夫がなされ、半端な庭などなくすべて中庭にして、しかも庇を深く植栽には涼を施しそれが冬には陽だまりとなるプラン配置で、しかも巨大な換気扇(ベンチレーター)の断面構造となっているのです。

写真:京の町家の中庭情景(写真:天野彰)
<写真:京の町家の中庭情景(写真:天野彰)>

街並みや路地から見える連子格子は排気ではなく吸気となって夕方路地に打ち水をすると冷えた空気が瓦屋根の熱に引き上げられ八方の部屋に行き渡り中庭から排気されるのです。冬は街路の連子の障子を閉じれば中庭に陽だまりが出来プライバシ-も高いのです。こうして暑い中でも深い庇の影や日よけの縁台に居ると涼しさを感じるのです。

イラスト:町家の断面図大きな換気扇(画:天野彰)
<町家の断面図大きな換気扇(画:天野彰)>

写真:京都の路地の町家外観 長江家(写真:天野彰)
<京都の路地の町家外観 長江家(写真:天野彰)>

暑い中でこそ、この涼しさを味わえ、感じられる“涼味”と“涼し気”こそ、きわめて合理的かつ生理的で心理学的な科学なのです。

2 暑楽しさは遮蔽と断熱と通気!

夏の蒸し暑さに適応した昔ながらの日本家屋を見る

えッ?と思われるかも知れませんが、私の設計手法は必要な断熱も高気密にもしますが、その前になによりも通気を最優先します。それはプランニングはもちろんのこと各断面床下屋根を含めた立体的なことまでです。なぜならわが国の住まいはあくまでも「夏を旨とすべし」だからです。人が住むための“場”づくりです。それは暑さはもちろんのこと湿気を嫌うことです。

昔からの家の形を見れば良いのです。そのためには日除けをつくり日射しを除けていたため日本の家は庇が深いのです。それは雨、露を防ぐばかりでなく、風を呼び込むのです。室内側の間仕切りも壁ではなくすべて襖や障子の建具で、夏場にはすべて簀戸に変えて風を通します。しかも高床にして床下で湿気を追い出し蒸し暑さを防ぐのです。

イラスト:昔の住まいの原点高下駄の“葦の丸屋”(画:天野彰)
<昔の住まいの原点高下駄の“葦の丸屋”(画:天野彰)>

陽の当たる壁には土壁を厚く塗り漆喰や珪藻土で仕上げていたのです。漆喰はその白さで陽ざしを反射しその素材の持つ調湿性で湿気を吐き出しまさに蒸発潜熱で壁を冷やすと言う優れものです。最近では見られなくなったたらいに浸した水とタオルでスイカを冷やしたあの情景の原理です。

写真:浸したタオルで冷えるスイカとトマト(写真:天野彰)
<浸したタオルで冷えるスイカとトマト(写真:天野彰)>

西日を防ぐために植栽を施し、開口部は簾で直射を防ぐのです。従って窓は極力大きく風通しを良くしながら安全な連子格子や蔀戸で守るのです。これらは敷地の狭い都市部では風通しも悪く隣のエアコンの室外機の排熱で熱せられとても無理のようですが、先の京都の町家すなわち中庭式のコートハウス状にするだけでずいぶん涼しく安全に過ごせるのです。

写真:日射を避け、風を呼び込む簀戸の京都の家(写真:天野彰)
<日射を避け、風を呼び込む簀戸の京都の家(写真:天野彰)>

実際に風通しとたらいとスイカの原理で断熱のない古い工場のスレート屋根の上に軽い簾を竹と縄で組みその下を棟に設置した穴開きパイプからの噴水で冷やし、ずいぶん涼しくしてよろこばれたものです。実際今でも屋根や屋上にこうした簾を敷きつめたり西日の当たる壁を板や日除けのシェードや外付けブラインドなどのインターフェースで覆うだけで遮熱効果は抜群となり夜まで室内で熱を帯びることはないのです。ただしいずれも台風や防火のための工夫が必要となります。

3 日本の蒸し暑い気候で快適に暮らす秘訣は、昔ながらの「町家」の工夫

夏の住み辛さは都市計画・建築的なことも原因

日本特有のモンスーンの蒸し暑さ、しかも高気圧に囲まれて比較的カラッとした暑さと、今日のような前線による蒸し暑さがあるのです。わが国特有の地形が加わります。あの日本列島を縦走する山脈です。南の海を迎え見るような都市ができます。これが大阪をはじめ名古屋、東京などのメガロポリスと言われる都市群なのです。そこに産業が生まれ、文化が育ち政治の中枢も生まれたのです。

最近の夏の住み難さ、災害の発生の危険、毎年繰り返されるようになったあの九州北部の線状豪雨などはまさしく温暖化の現象で地球規模での人類の大問題ですが、毎年夏の都市部に起こるゲリラ豪雨などはまさしく建築的、都市計画的な原因とも言えるのです。農村や地方にあった、民家をそのまま都市に押し込め密集した田舎の家、田園都市の発想でまさしくその家の本質は田舎の屋敷の持ち家志向なのです。今に次々建つ近代的なマンションも湾岸のタワーマンションも本質的には持ち家を積み上げただけのものと言えるのです。あの欧州のプラッツァや市場を囲んで出来た集合住宅とは本質的に異なります。まさに大陸の狭間にいて城壁の中につくられた城塞都市の集合住宅でそこに否が応でもコミュニティ文化も生まれたものです。

日本「町家」の光と風を呼び込むつくりが重要

そこで改めて京都も見て観ると、まさに都市計画で碁盤の目に区画された通りや小路に囲まれた都市住宅の発想のあの「町家」のなのです。そこに木造ながら密集するための防火対策や通気や採光のための植栽や通り庭さらには切通しなどの工夫でその街並みや合理的なプラン展開は、わが国独自の“住まい科学”なのです。それが今の京都の風情ともなっているのです。古来わが国の家や、今に残る古民家や桂離宮や伽藍の平面図が生まれている。雁行する平面は、光と風を呼び込み、時とともに移り変わる四季を楽しむもので、都市の中の町家は植栽(中庭)をつくり単に家の中で楽しむ庭ばかりではなく、光と風を呼び込む立体的“技”の都市型住宅で月や雪など四季の情景を楽しむ小宇宙なのです。木造でありながら周囲をコンクリートやブロックで防護しその内側は中庭を囲んだ木の家にする・・・私の「セルフディフェンス・ハウス」の発想です。実際はこの通りの形状にならずともこの概念で設計するのです。

セルフディフェンスの家(画:天野彰)
<セルフディフェンスの家(画:天野彰)>

暑いが涼しげな京の町家の風情(天野彰)
<暑いが涼しげな京の町家の風情(天野彰)>

そこに狭くても楽しい住まいと生活。「光」と「風」と「時」であり、四季折々の朝な夕なの情景を織りなし、優しい人間性を育むことと思うのです。

4 日本の家の課題は「夏をどう快適に過ごせる家」とするか

亜熱帯モンスーンどころか年々熱帯モンスーンの猛暑となり、そのまま“熱い”台風の到来で台風一過の秋めいた青空などは昔の話で、台風一“禍”の猛暑が続く長い夏となっているようです。とは言え、湿気で暑いこの季節を味わいわが国独特の夏の風雅があり、しかも農作物の植え付けの時期をも図っていた季節でもあるのです。それがわが国の文化であり、繁栄と人知のもとともなっているのです。あの漆の樹液を使って、この湿気でこそ乾く永遠の光沢の美を持つ漆塗り器を生み出し、それこそがわが国独特の塗装「ジャパン」で、「ジャパニング」と呼ばれる技ともなっているのです。

夏と冬の装いの日本の家(画:天野彰)
<夏と冬の装いの日本の家(画:天野彰)>

多湿の暑さは変わらないのに、変化する日本の家

こうしてわが国の湿気の多い暑い夏を旨とすべし!などと言いながら、改めてわが国の家々を観てみると、どの家もそんな気候の変化などどうでもいいような家ばかりで驚くばかりです。断熱と気密性の高いベニヤ板とスレートなどのサイディングの全天候型の箱の家となっているのです。柱と屋根だけのわが国の「傘の家」がどうしてこうも、つるッとした扁平な「壁の家」となってしまったかと不思議です。もしこのありさまを兼好法師が観たらどう言うか?

しかし暑さの違いはあっても多湿の日本の夏は皆同じで、今も昔もそこで人は同じように暮らしているのです。この当たり前のようなことが長年受け継がれ人々の生活は何も変わっていないのです。人々はその中で家を建て、そして工夫をしてきたのです。

中でも「夏を過ごす」ことだけは大きな課題であり、それは「科学」であり、「物理」でもあり、生きるための「生理」であり「心理」でもあると分かっていたのです。

写真:四季を感じられるひまわりの家(設計:天野彰)
<四季を感じられるひまわりの家(設計:天野彰)>

自分たちでどう暮らすが考えて家を建てることが重要

その先人の知恵をメーカーや設計者に任せず、自分自身で自分なりの暮らしを想像してみるのです。地震も台風もさらには火災に見舞われるかもしれません。自分の家は自分で創り、自分で守ることです。こうしてちょっと自身で工夫して、自然に「夏を快適に過ごそう!」と考えるのです。すると古人の知恵や暮らしが見えて来て「文化」が見えてくるはずです。その気持ちだけで、この先電気が停まり、年老いて一人になったときのことを考えることにもなるのです。これから暮らしていく私たちの家はどうあるべきか、現代の家探し、家づくりそしてリフォーム計画も変わってくるはずです。それこそ頑丈でメンテナンスのいらない「小さな家」そう、狭くても楽しい、夏も「暑楽しい家」なのです。

イラスト:四季と災害を考え回転し、いざとなると敷地に沈み込む家(画:天野彰)
<四季と災害を考え回転し、いざとなると敷地に沈み込む家(画:天野彰)>

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建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

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