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2024年12月23日(月)
天野 彰
目次【1】伝統木造と補強金物との適合【2】木造の「木組み」と「仕口」は軋(きし)みの柔軟性の強さ【3】縄で縛っただけの「仕口」の柔軟!“やわら構造”西欧の近代化を目の当たりにし素材と構造をむき出しにしたシンプルなデザインを見出し、竣工間近のインテリアに導入し、和の伝統的美しさと融合できたかと悦に入っていた矢先、このあっけない破壊でした。和の仕口構造と合理的な西欧の継ぎ手のボルトとの相性の難しさに落胆したのです。幸いなことに、設計した自身がその場にいて、破壊の一部始終を目の当たりにし、同時にその場に居た家族のおののく姿をみて、筆者は建築家として新たな責任感と、改めて伝統木造の奥の深さの探求と西欧の近代建築との適合に大きな使命感を持たされたのです。伝統木造と補強金物との適合数値だけではなく、建て主に見える真の「安心」を留意し、改めて伝統木造建築構造の柔軟で持続可能な「仕口」の合理性と、柔軟で粘りのある継手や補強金物の開発の必要を迫られたのです。その後の修復工事にあたり「安全と安心」の“心”を知る稀な体験を与えられ、建て主と運命を共にできたことに感謝するばかりです。災禍を体験し、災害を視て検証し、修復や復興をすることだけでなく今後起こりうる事象を想像して対処することが建築士の職能であり、防災の心を醸成することだと思ったのです。その後各地で起こった災害を検証するにつれ、改めてわが国、千年を誇る伝統建築技術の柔軟な「仕口」の合理性と持続性を学び、素材と継手やその補強の開発の必要を思い知らされたのです。木造の「木組み」と「仕口」は軋(きし)みの柔軟性の強さその「仕口」こそ、枘(ほぞ)と枘穴による木と木の継ぎ手による伝統的な木組みです。しかし現代は匠の大工が少なく「仕口」は機械でプレカットされ単なる“継ぎ手”として解釈され、ボルトなど金物で安易に補強し、金属だけの継ぎ手の木造?もあるのです。木は切られてもなお生きているのです。乾燥し痩せ、湿気でまた太り、反ったり捩じれたりもするのです。しかし継ぎ手の金物は変わることなく次第に歪や隙間ができ木を傷つけることもあるのです。今回の屋根の破壊も、棟梁たちは「仕口」をボルトで締めたことで “軋み”で揺れを柔軟に吸収できず、逆にボルトが木の柱に食い込み引き裂いたと言うのです。阪神・淡路大震災などの突き上げるような直下型の揺れや、熊本地震では震度7の揺れが2度もたて続けて起こって耐えきれず多くの建物が倒壊したのです。しかし同様の揺れでも積雪の多い新潟中越地震では骨太の家は倒壊した例は少なく、東日本大震災の津波でも仙台沿岸平野部では流失物の衝撃で破壊されるも骨太の軸組木造は軋みと粘りで踏ん張ったのです。縄で縛っただけの「仕口」の柔軟!“やわら構造”白川郷の合掌造りは大雪や強風に300年も耐え、30余名を乗せて街中を優雅に練り歩く祇園祭の山車や鉾も縄組でしなやかに動くのです。地震や強風、積雪などの衝撃を柔軟に和らげる木組みの「縄組架構」です。互いの材を縄で縛り柔軟に撓(しな)うのです。しかも各部材をばらして保管をし、いつまでも使用できる、SDGsの“柔ら”の構造なのです。白川郷合掌造りの縄組、積雪と強風に備える柔軟性/祇園祭の縄仕口の鉾。30名も乗せてぎしぎしと揺れて街を動く。縄を解いて保管し来年また組む(撮影:天野 彰) こうして筆者の建築をつかさどる姿勢は根本的に変わり、建物もそこに住み働く人も健康で持続可能こそが唯一となったのです。あの阪神大震災から30年が経ちます。あの頼りにした大地に裏切られて、しかしそれに負けず柔軟に復興し、今日の阪神があるのです。きっと能登の人たちも今こうした大地を受け入れ、共に生きて行く柔軟な覚悟を持たれ、自立の姿勢で強く活きていかれることを祈るばかりです。さあ、新たな年が始まります。次回からは時と自然に柔軟に身を任せて・・・「長生きハウス」を考えてまいりましょう。
西欧の近代化を目の当たりにし素材と構造をむき出しにしたシンプルなデザインを見出し、竣工間近のインテリアに導入し、和の伝統的美しさと融合できたかと悦に入っていた矢先、このあっけない破壊でした。和の仕口構造と合理的な西欧の継ぎ手のボルトとの相性の難しさに落胆したのです。
幸いなことに、設計した自身がその場にいて、破壊の一部始終を目の当たりにし、同時にその場に居た家族のおののく姿をみて、筆者は建築家として新たな責任感と、改めて伝統木造の奥の深さの探求と西欧の近代建築との適合に大きな使命感を持たされたのです。
数値だけではなく、建て主に見える真の「安心」を留意し、改めて伝統木造建築構造の柔軟で持続可能な「仕口」の合理性と、柔軟で粘りのある継手や補強金物の開発の必要を迫られたのです。
その後の修復工事にあたり「安全と安心」の“心”を知る稀な体験を与えられ、建て主と運命を共にできたことに感謝するばかりです。災禍を体験し、災害を視て検証し、修復や復興をすることだけでなく今後起こりうる事象を想像して対処することが建築士の職能であり、防災の心を醸成することだと思ったのです。
その後各地で起こった災害を検証するにつれ、改めてわが国、千年を誇る伝統建築技術の柔軟な「仕口」の合理性と持続性を学び、素材と継手やその補強の開発の必要を思い知らされたのです。
その「仕口」こそ、枘(ほぞ)と枘穴による木と木の継ぎ手による伝統的な木組みです。しかし現代は匠の大工が少なく「仕口」は機械でプレカットされ単なる“継ぎ手”として解釈され、ボルトなど金物で安易に補強し、金属だけの継ぎ手の木造?もあるのです。
木は切られてもなお生きているのです。乾燥し痩せ、湿気でまた太り、反ったり捩じれたりもするのです。しかし継ぎ手の金物は変わることなく次第に歪や隙間ができ木を傷つけることもあるのです。
今回の屋根の破壊も、棟梁たちは「仕口」をボルトで締めたことで “軋み”で揺れを柔軟に吸収できず、逆にボルトが木の柱に食い込み引き裂いたと言うのです。
阪神・淡路大震災などの突き上げるような直下型の揺れや、熊本地震では震度7の揺れが2度もたて続けて起こって耐えきれず多くの建物が倒壊したのです。しかし同様の揺れでも積雪の多い新潟中越地震では骨太の家は倒壊した例は少なく、東日本大震災の津波でも仙台沿岸平野部では流失物の衝撃で破壊されるも骨太の軸組木造は軋みと粘りで踏ん張ったのです。
白川郷の合掌造りは大雪や強風に300年も耐え、30余名を乗せて街中を優雅に練り歩く祇園祭の山車や鉾も縄組でしなやかに動くのです。地震や強風、積雪などの衝撃を柔軟に和らげる木組みの「縄組架構」です。互いの材を縄で縛り柔軟に撓(しな)うのです。しかも各部材をばらして保管をし、いつまでも使用できる、SDGsの“柔ら”の構造なのです。
白川郷合掌造りの縄組、積雪と強風に備える柔軟性/祇園祭の縄仕口の鉾。30名も乗せてぎしぎしと揺れて街を動く。縄を解いて保管し来年また組む(撮影:天野 彰)
こうして筆者の建築をつかさどる姿勢は根本的に変わり、建物もそこに住み働く人も健康で持続可能こそが唯一となったのです。あの阪神大震災から30年が経ちます。
あの頼りにした大地に裏切られて、しかしそれに負けず柔軟に復興し、今日の阪神があるのです。きっと能登の人たちも今こうした大地を受け入れ、共に生きて行く柔軟な覚悟を持たれ、自立の姿勢で強く活きていかれることを祈るばかりです。
さあ、新たな年が始まります。次回からは時と自然に柔軟に身を任せて・・・「長生きハウス」を考えてまいりましょう。
岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。
一級建築士事務所アトリエ4A代表。
一級建築士天野 彰 公式ホームページ 一級建築士事務所アトリエ4A ホームページ
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