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東京都の太陽光パネル設置義務化で誰がトクする?
東京都は2022年5月24日、都のエネルギー環境計画について議論する環境審議会を開き、「環境確保条例」改正案の中間答申をまとめました。この中間答申において中小規模新築建物に太陽光パネルの設置を義務づける方針を明示。
ここでは、そんな太陽光発電を設置する場合に知りたい設置費用や、結局トクなの?などを簡単に説明していきます。
1.太陽光発電システムとは、お金に余裕のある人が儲けるための仕組みだったのか?
「太陽光パネル義務化」の対象は都内への分譲・注文住宅供給が延床面積で年間2万平方メートル以上となる、主にハウスメーカーなどの事業者です。日照条件などを考慮した義務量(総量)を事業者ごとに設定して、柔軟に対応できる仕組みを整えるとのこと。都では、条例に太陽光パネル義務化などの項目を加えることにより、エネルギー危機への備えや、2030年「カーボンハーフ」(再エネ比率50%)、2050年「ゼロエミッション東京*1」実現に向けた取り組みを加速させたい考えです。2022年9月頃までの目安で条例の改正手続きに着手するとのことです。
*1 平均気温の上昇を1.5℃におさえることで、2050年にCO2の排出実質ゼロに貢献する取り組みのこと
さて、都のこの方針について、非常にネガティブな反対意見も多く寄せられています。
経済産業省のデータによると、2021年の太陽光発電の設置費用は1kWあたり平均28.0万円とのことです(新築)。住居用のソーラーパネルの容量は、一般的に3~5kWが多いことを踏まえると、2021年の太陽光発電システムの設置費用は84万~140万円になります。
ちょうど10年前の2012年に固定価格買取制度(FIT)が始まった時は、1kWhあたり買取価格は住宅用の10kW未満で42円、10kW以上で40円+税と、非常に高く設定されておりました。
※材料と設置工事価格の合計で、補助金の対象として補助金を支給されたあとの価格ではありません。
2012年の太陽光発電システム設置費用は、新築住宅で1kWあたり平均43.1万円でしたので、2012年と2021年の設置費用を比べると、設置費用はおおよそ2012年の65%弱にまで下がっています。
たとえば、容量 5kWの住宅用太陽光発電システムを導入したとすると、2012年の設置費用は平均で215.5万円だったのに対し、2021年の設置費用はおおよそ140万円。つまり75.5万円も安くなったということになります。
ここから以下のことが考えられます。
2012年頃は経済的に余裕がある方々が「儲かるから」という理由で競って屋根載せやメガソーラーに投資しました。その裏で高い買取価格の原資としての『再エネ賦課金*2』が、電気を使うすべての人の電気使用量に比例して負担させられることになりました。あわせて、当時はたいへん高価だったゼロエネルギー住宅(ZEH)に対し別枠で300万円以上の補助金まで用意。このように個人に対する行政からの再生エネルギー補助は実に手厚い内容だったのです。
再生可能エネルギーを普及させて住宅の省エネを推進しようという目的が、結果として「高級住宅を建てられる経済力をもつ富裕層が、競って暖かく安い電気代で暮らす」ということになり、その原資として税金のほかにすべての月額電気料金に加算するかたちで再エネ賦課金が徴収。さらにZEH補助金は税金から。
つまり太陽光発電システムとは、施主の富を象徴するものだったのです。
いままでこのような経緯があって、太陽光発電システムの設置を義務化とする、ということになったら、反発しないほうが不思議です。
2.では、なぜ義務化されるの?
さて、太陽光パネルの設置が義務化される理由ですが、設置にあたっての初期費用が10年前から45%も値下がりしたことが最大の理由と考えられます。
太陽光発電システム全体の初期費用が下がった結果として、一般の人も導入しやすくなりました。FITによる余剰電力買取価格も42円/kWh から17円/kWhと、6割以上も減少しました。これで毎月の電気料金明細を見るたび溜息が出てしまう『再エネ賦課金』もそろそろ値下げするのではないか、とも考えられています。別枠で300万円以上の補助となっていたZEHも工事費用が下がり、以前とは異なり、太陽光発電システム導入にあたって最も大きな目的は売電ではなく『自家消費』という流れになってきたのではないでしょうか。
つまり、太陽光発電システム設置の義務化にあたっての最大の目的は、家庭で消費する電力を自宅で創るために義務化なのです。太陽光発電システムは万が一の災害やプラックアウトのときでも普段通りの生活をすることができる、という点もメリットのひとつ。
円安と戦争によるエネルギーコストの急上昇により、燃料費調整額はこれからどんどん値上げされます。こまめに節電しなければ、これからは大幅に月々の電気利用金は上昇し、ガス代や灯油代、ガソリン代も上昇していくことでしょう。
当たり前のことではありますが、自宅で発電した電気を自家消費の足しにすることで月々の電気料金は減らせます。電力会社から購入する月々の電気使用量を減らすことで、これから訪れる燃料費調整額の値上げ影響もだいぶ減らすことができるようになります。
これらの設置メリットを考えると、太陽光発電にまつわる「不公平」の問題はだいぶなくなってきたのかな・・・とも思えるのですが、いかがでしょう?
3.太陽光発電は電気自動車(EV)に使える!
太陽光発電で電気を創れば、当然のことながら日常の住まいの電力に使えます。余りを「売る」ことはもちろんですが、何より買い物で使う車のガソリン代を浮かすため、家を買ったタイミングで小さな電気自動車を買って、ガソリン代をまるまる浮かす、という方法もありそうですね!
◆EV補助金を組み合わせると、最大1,015,600円(東京都の場合)も補助金が!
実売価格は新車のガソリン軽自動車とほぼ同じなので、おトクに車を手に入れることができます。また自宅に充電設備を設置すると、充電設備も補助の対象となります。2022年7月からは、東京都にお住まいの方であれば自宅に太陽光発電システムと充電設備を設置すると、国の補助金と組み合わせ全額補助金でまかなえてしまうとか。
日産自動車によると、発表から約3週間で受注11,000台を突破したそうです!(気になる方はこちら)
さらに、毎年5月に悩む【自動車税】の軽減率は「概ね75%」。2021年5月時点の制度では新車登録時と初回車検時(継続検査)の自動車重量税が免税(100%軽減)車の購入時に納める税金である環境性能割も非課税。
つまり、購入時と車検のときも大幅に節税できて、当然ガソリン代はかからないので、節税とガソリン代の節約分を住宅ローンの支払いに回せます。
家を買ってもアウトドアも存分に楽しみたいなら、人気のSUVを買ってしまう!という方法もありそうです。
いろいろな補助金も用意されているので、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
◆参照◆
東京都:小池都知事「知事の部屋」/記者会見 令和4年6月3日) 「2 エネルギー関連について(電力ひっ迫・HTT EV買換え編)」 /資料はこちら
4.義務化される東京都内では太陽光発電はどの程度普及しているの?
2021年7月26日の東京都環境審議会で配布された資料によると、都内における太陽光発電設備の普及率は、全体はたったの4.24%。住宅だけ見てもたった4.69%の設置率と、とても普及しているとは言えません。
築6年未満の建物に限って調べてみても、太陽光発電パネル設置率は12.92%と、話題になっている割には太陽光発電のバネル設置は進んでおりません。
5.設置義務化にともなう設置コストは?
義務化と聞くと、誰しも不安になるのが「設置コストは誰が負担するの?」ということ。
この設置義務化を課されるのは、建売または注文住宅を供給するハウスメーカーなどの事業者で家を建てる個人ではありません。その事業者が供給する住宅全体である程度の太陽光発電を載せる必要がある、ということです。
<新制度のイメージ(義務量)>(都内で年間に供給する住宅等の棟数が500棟の例)
つまり、そもそも屋根の面積が狭い狭小住宅やまわりを高層マンションなどで囲まれた住まいについては、無理やり太陽光発電システムを設置する必要はない、ということです。その会社全体で、条件がよい家にだけ載せて設置目標をクリアあれば大丈夫なのです。
続いて、肝心の費用負担ですが、大きく分けて家を買う人が負担する場合と、タダで太陽光を載せてくれる業者に負担してもらう(PPAと呼ばれます)方法の2つあります。
自分で負担する場合は、延床面積が広い、または南側片流れ屋根など、設置面積がとれる場合は5kW近く載せられる可能性があります。その場合はだいたい140万円程度が目安になりますが、依頼する会社によって設置コストは大きく異なります。
ただ、一般的な戸建住宅で太陽光発電システムを設置する場合、だいたい100万円~140万円程度の予算を見ておくと、太陽光発電システムの設置は大丈夫かもしれません。つまり太陽光発電システム設置にかかる予算取りは、だいたい新築注文住宅を新築する予算の4%~6%程度。住んでからの経済的メリットを考えると、贅沢な設備を削るか予算を少し上げるだけでなんとか捻出できそうな・・・
どうしても初期コストを負担したくない場合は、後者のPPAを選べば初期コストはゼロになります。
6.太陽光発電システムでペイできる?
では、太陽光発電を設置する費用がかかるのに、それを設置して本当にメリットがあるのかは、気になりますよね?
以下の図を見ても分かるように、光熱費は毎月上がる一方です。
それを太陽光発電システムで補えるのか。以下のグラフを見るかぎり、多少無理しても自分で初期費用を負担すると結果としてオトクになりそうです。
<光熱費の値上がりはどれぐらい?>
一般的な住宅用太陽光発電システムの発電容量と考えられている、発電容量4kWの設置費用は平均110万円程度といわれています。太陽光の余った電気を売ると、設置してはじめの10年間の買取価格は2022年度では1kWhあたり17円です。
これを1か月の電気代に置き換えてみます。現在、国際情勢のひっ迫などを受けて電気代・ガス代がここ1年ちょっとで4割も上昇しています。2022年7月の電気代に基づいた都の試算をベースに、東京大学大学院の前准教授の試算が公開されています。
<太陽光発電がある場合とない場合を比較>
一般的な4人家族では月々の電気代は1万2千円くらいといわれています。そこに太陽光発電システムをのせると電気が作れます。昼間に高い電気を買わなくて節約できた分が約4,500円、余った電気を売った収入で3,500円、合計8,000円くらいオトクになります。つまり太陽光発電を載せていない場合は、月々12,000円の電気代が、8,000円安くなって4,000円くらいになります!
よって、月々の電気代節約だけでも平均初期コストの100万円も10年以内に回収できます。
電気自動車を補助金で購入してガソリン代や税金が浮くと、ガソリン代と税金で1ヶ月1万円かかると仮定すると、年間216,000円の削減。太陽光発電に電気自動車を組み合わせると、なんと4.6年で回収できてしまいます。(車両本体価格や自動車保険等除く)
さらに、エコキュートを使って深夜電力でお湯を湧かすときの電気代は月々2,000円程度と想定されますので、太陽光発電でお湯を湧かすと年間24,000円の電気料金が節約できます。
すると、年間の電気代とガソリン代と自動車関連の税金で節約できる金額は1年あたり34万円弱。すると、太陽光発電システム設置費用は、なんと3年程度で回収できてしまいます。つまり、4年目以降は、月々3万円近くも節約できるということです。
初期コストを回収した後は、この金額が丸々オトクになります。たしかに設置後10年以降は買取単価が下がりますが、発電分を自分でなるべく使ってしまえば大丈夫です。電気自動車(BEV)や蓄電池を導入すると、発電分のほぼ全てを自家消費してしまうこともできそうです。
この計算は、太陽光発電の初期コストを自己負担したケース。PPAでは、発電分のほとんどがリース会社のものになってしまうのでメリットは小さくなります。
東京都は太陽光にも1kWあたり12万円とたくさんの補助金も出しているので、5年くらいで元が取ることも可能です。他にも使えそうなものは以下にまとめました。詳細は、東京都ホームページを必ずご覧ください。(参照:東京都 断熱・太陽光住宅普及拡大事業)
補助対象 | 補助率等 | 上限額 | 想定件数 |
---|---|---|---|
高断熱窓 | 1/3 | 100万円/戸 | 60,000戸 |
高断熱ドア | 1/3 | 16万円/戸 | 60,000戸 |
蓄電池 | 1/2 | [太陽光4kW以上と蓄電池を併せて設置の場合] 一住戸あたり以下のうちいずれか小さい額(最大1,000万円) ①蓄電池容量 10万円/kWh ②太陽光発電設備容量 20万円/kW [太陽光4kW未満と蓄電池併せて設置又は蓄電池のみを設置の場合] 10万円/kWh、最大80万円/戸 | 9,000件 |
V2H | 1/2 | 50万円 | 900件 |
10/10 | [太陽光、V2H及びEV・PHVが揃う場合] 100万円 | ||
太陽光発電設備 | 新築住宅 12万円/kW | [3kW以下の場合] 12万円/kW(上限36万円) [3kWを超える場合]10万円/kW(最大500万円/棟) [ただし3kWを超え3.6kW未満の場合]一律36万円 | 11,853件 |
さらに蓄電池まで載せれば自家消費をさらに増やせてもっとオトクになります。東京都では蓄電池の補助金も1kWhあたり10万円と非常に太っ腹なので、太陽光とセットで利用すれるとさらに有利ですね。よって、環境問題とか脱炭素とかに興味がもてないとしても、これからの電気代を少なくするため、太陽光はとりあえず載せておくというだけで節約できる!という考え方ができます!
毎月の電気代が減る!車のガソリン代も浮かせる! 先々の不安に備えるためにも『とりあえずつけてみた』でも十分でしょう。
これからの新築では、日々の電力を家で創り・使える家にすることが重要です。そして、上がる光熱費をまかなうためにも太陽光発電は非常に役に立ちます。
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