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建築家 天野 彰 長生きハウス!“万酷八苦”万博 私の記憶

はじめに

4月となって桜も満開、ピンクの桜吹雪に久方の安堵を覚えます。そしていよいよ1970年来の二度目の大阪万博の開幕です。

あちらこちらにイベントやテーマパークなどが乱立する現在、しかもトランプ関税や紛争の動乱のさなかの国際情勢で、あの70年のような「こんにちは~♪」のような盛り上がりとなるのでしょうか?

筆者自身、万博とは学生時代より深い縁があり、ある館のサブ・プロデューサなるものを拝命、その設営さらに運営などで万国博ならぬ、四苦八苦の“万酷八苦”であったことが、思い出されます。何とか無事に成功して欲しいと願うばかりです。

万国博の設計競技に参加

学生所員として東京大学の生田勉研究室に勤める栄誉を得て、教授から通産省の池口小太郎(のちの堺屋太一)氏を紹介され、万博の当初から係わり、教授のカバン持ちとして1966年開催のモントリオール万博を訪れる機会にも恵まれ、各国がしのぎを削る出展の様子とその雄大さと優雅さに大いに啓発。その後1968年、大阪万博に向けた久保田鉄工主催のパビリオン設計のコンペに応募、運良く優秀賞に選ばれることになるのです。

大阪万国博に向けたクボタ鉄鋼のGコラムのパビリオンコンペ「近代農業館」応募案

大阪万国博に向けたクボタ鉄鋼のGコラムのパビリオンコンペ「近代農業館」応募案(パース図:天野 彰)

設計競技とは多くの建築士がチャンスを勝ち取ることが可能で、競技の参加は定められた規定の中でさえあれば、自由にドラマを想定することができ、しかもその提案は机上だけではなく、社会に向けて描くことであり、実際に建設されることもあるフィージビリティな案の競技で、緊張感のあるものです。

さらに指名の設計競技もあり、東京大学生田勉研究室での「近代文学館」提案作成の手伝いもさせて頂き、さらに教授から「青森青少年婦人センター」のコンペの草案づくりも任されたのです。

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建築から構築(人や物のモーメントとベクトル)

一体どうすればプランの草案が生まれるのか?そこで住まいづくりでの建物を構成する家族の流れと行動のパターンに素直に従ってプランニングを進めてみたのです。

するとこの会館の場合の人の流れは、青少年と婦人、さらには一般市民が集う流れとその向きに従った動線のパターンがいくつか見えて来るのです。それこそまさにモーメントとベクトルによるプランニングです。このことは住まいづくりに限らず、建物の規模や用途にも係わらず、生産現場や医療、さらには都市計画のプランニングにも反映させることができたのです。すなわち“カタチ以前”のスケッチで建物を根底から構成する動力として建物が動き出すのです。筆者は以来、建築から「構築」と称しているのです。

「モーメントとベクトル」三方四方からの動線による「構築プランニング」概念図と「青森青少年婦人センター計画」 (東大生田勉研究室案 図、模型:天野 彰)

「モーメントとベクトル」三方四方からの動線による「構築プランニング」概念図と「青森青少年婦人センター計画」 (東大生田勉研究室案 図、模型:天野 彰)

こうして万国博に向けたクボタ鉄鋼のパビリオンコンペでも、地味でありながら未来の根幹となる産業の「近代農業館」をテーマで、人の行動さらに趣向を優先して素直にプランニング構築したのです。するとこのことが奏してか?自然とカタチが生まれ、優秀賞を獲得できて万博に係わることともなるのです。

実際のパビリオンの構成とプロデュース

お陰で政府館のプロデューサ浜口隆一氏に会え、氏が係わる中小企業共同出展の「生活産業館」(生田勉都市建築研究室:設計)のプロデュースに参画する栄誉を得て、各社のブースのデザインを任され、さらに政府館のプロデュースに忙しかった浜口氏のサブとして「生活産業館」のテーマづくりと展示構成、さらに世界初の回転劇場(カルーセル)の企画と運営を担当する大役を任されたのです。ここからがまた新たな四苦八苦の始まりとなるのです。

初めての博覧会のイメージづくりは束縛がなく自由な反面、方向付けの決定は不自由なものです。前例もなく、各地の万博会場などを視察しても、奇抜で未来志向のものばかりで参考になるものもないのです。

そればかりか30余にもなる出展各社のまさに祭りの“出店の場所取り”同然の激しい争奪戦となり、とても若輩ごときの手に追えるものではなかったのです。ついは疲労困ぱい、体調を崩しすべてを投げ出し、1週間ほど休養するはめとなったのです。

生活産業館の回転劇場(カルーセル) 桜花のような花弁の一つが導入部で100名ほどの観客を入れ回転させ、春夏秋冬の日本の四季の情景映像を季節ごとのシアターのマルチスクリーン(大建工業ブースのスクリーンの例)に映し出す。 (プランとデザイン;写真筆者)

生活産業館の回転劇場(カルーセル) 桜花のような花弁の一つが導入部で100名ほどの観客を入れ回転させ、春夏秋冬の日本の四季の情景映像を季節ごとのシアターのマルチスクリーン(大建工業ブースのスクリーンの例)に映し出す。 (プランとデザイン;天野 彰)

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イベントとは日常の生活のドラマづくり・・・

そんな時、住まいづくりでの家族の勝手な意見の応酬、同じ屋根の下での日常生活と経済の、古今東西誰にも解かる日常を軸とすることにしたのです。そう、当たり前の暮らしです。

こうして“朝な夕な”のテーマも生まれ、それを一本の時間軸として30数余の出展各社の想いを当て嵌め、繋いで、日常の生活、四季、そして一年、その未来へとストーリーを展開することとなったのです。何よりも施工は開催までのタイムスケデュールに追われ、最後の最期まで緊迫の連続となり、出展各社の調整やデザイン、各パビリオンも職人不足で職人を奪われないように見張ったり、奔走し、やっとの思いでプレス・レビューを済ませたのでした。

開催に向けに向け琵琶湖博にて「生活産業館」“朝な夕な”のPR展示(企画制作:筆者)と「生活産業館」開催当日のスナップ(写真:天野 彰)

開催に向けに向け琵琶湖博にて「生活産業館」“朝な夕な”のPR展示(企画制作:筆者)と「生活産業館」開催当日のスナップ(写真:天野 彰)

華やかな「こんにちわ~♪」のオープニングの裏でまるでセットが倒れてこないよう支えているかのような毎日で、さらにランニングでのトラブルの続出、まさに拷問のような四苦八苦の会期の半年間でした。これが筆者にとっての万博、“万酷八苦”の記憶です。きっと今も、こんな思いをされている開催関係者の方々もたくさんいらっしゃることだろうと身に詰まされています。

さて次回からは、こんな時代だからこそ改めて増築よりも減築をさらに掘り下げて減築リフォームをお話してまいりたいと思います。

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建築家 天野 彰建築家 天野 彰

建築家 
天野 彰

岡崎市生まれ。日本大学理工学部卒。
「日本住改善委員会」を組織し「住まいと建築の健康と安全を考える会 (住・建・康の会)」など主宰。住宅や医院・老人施設などの設計監理を全国で精力的に行っている。TV・新聞・雑誌などで広く発言を行い、元通産省「産業構造審議会」や厚生労働省「大規模災害救助研究会」などの専門委員も歴任。著書には、新刊『建築家が考える「良い家相」の住まい』(講談社)、『六十歳から家を建てる』(新潮選書)『新しい二世帯「同居」住宅のつくり方』(講談社+α新書)新装版『リフォームは、まず300万円以下で』(講談社)『転ばぬ先の家づくり』(祥伝社)など多数。

 一級建築士事務所アトリエ4A代表。

 一級建築士天野 彰 公式ホームページ
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