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都市の中の密集地の京の町家も「傘の家」~冷暖房の時代も「夏を旨とする」!
都市の中の密集地の京の町家も「傘の家」~冷暖房の時代も「夏を旨とする」!
コンチキチ♪ のお囃子に包まれるころ、京都の夏はことのほか暑く、反対に冬は冷え込みます。
郊外の家はともかく都市化され、密集化すると、火災を考え隣家とは防火壁で囲い、否応なく隙間のない「壁の家」となります。そのため家の中に中庭や植栽を設け通気をします。この“傘”を家の中央の中庭に向け、小さな自然をつくるのです。それが京の町家で、なんと内側に向いた「傘の家」なのです。
京都は大阪や奈良の隣で、なんとなく温暖な関西の町というイメージがあります。が、意外にも日本海に近く、立体的な地形図で見ると、山脈の尾根が切れて、北陸の風が吹き込んで来て、しかも北山と比叡山、南は紀伊の山々に囲われて、あの厳寒多雪の白川郷にもよく似た盆地とも言えるのです。夏暑くしかも冬寒い地形なのです。
まさに夏を旨とする街づくりは夏の暑さ対策と、冬の北山おろしの寒さ対策、さらには防火対策です。
その形状こそが、今の京都の南北を軸とする路地と中庭の町家群であり、いわば世界にも類を見ない、すべてが木造の都市の“遺跡”が、幸運にも戦禍を免れ現代もなお生きた文化財となって残っています。町家はなにも京都に限らず古い町に行けばどこにでも見られるものです。
■イラスト:町家の通り庭と中庭のプラン(画:天野彰)
街道沿いに密集する商家ならば、あの卯建(うだつ)という豪華な防火壁を見ることもでき、その奥には必ず中庭があります。卯建についてはいつか詳述するとして、多くの人が集まって住む街で、当時の人たちが抱えた課題とは、それまでの開放的な“傘の家”をいかに都市に適合させるかです。武家や大名などは、広い敷地に塀を巡らし、その中に野中の一軒家のような開放的な家に住むことができます。
しかし町民や商家などは、限られた敷地の中で最大の間口の家や店をつくり、さらに類焼防火のために隣家との間は土壁にし、その壁に沿って風が通る“傘”をつくることです。それが町家です。
■左:町家の穏やかで涼しげな中庭 右:町家の通り庭(台所)風が涼しく通り抜ける(天野彰)
町家には、都市の家の“千年の工夫”とも言うべき生活の知恵があります。路地と路地裏を通り抜ける「通り庭」があり、それに接して「植栽」や「坪庭」が平面的な通気採光を即します。さらに驚くべきはその断面を見ると、家そのものが“巨大な換気扇”になっていることです。
中庭の前後の家の瓦屋根は昼間、太陽に熱せられ、上昇気流を起こします。するとこの中庭の空気が負圧となり、屋根の上昇気流に吸い上げられるように昇っていきます。室内の空気がそれに引っ張られ、表と裏の両路地から中庭に向かって入って来るのです。夕暮れ時に路地に打ち水をすると、蒸発潜熱で冷えた空気が室内に呼び込まれ涼しくなるなど、驚くほどに科学的な工夫と、今も残る連子格子の町並みのたたずまいに誰もが心のふるさとを感じるのです。
■左:町家の断面は巨大な換気扇! 右:町家が連続する京都の路地(画:天野彰)
★毎週土曜日 最新コラム公開中! 次回「江戸の文化に学ぶ現代の住まいと街」です。お楽しみに♪
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